零れ落ちる前に。

その時々感じたことを、零れ落ちる前に。

白倉・下山・田崎。3人のメインスタッフが証言する『ジオウ』の狙い

先日、このような書籍が発売されました。

 

平成ライダー20作記念! 「仮面ライダー」2000-2018全史

平成ライダー20作記念! 「仮面ライダー」2000-2018全史

 

 

 

宝島社より発売された『平成ライダー20作記念!「仮面ライダー」2000-2018全史』という、平成ライダーについてこれでもか!と書き連ねられた本です。

内容の構成ですが、前半はジオウのキャストや半田健人氏のグラビア、すなわちビジュアルブック的な内容で、後半はぎっしりとキャストスタッフの証言が載せられたインタビュー本的なもの。主に、後者のようなスタッフの証言が読める、という点に魅力を感じ、購入しました。他にも平成ライダーシリーズ1作品ごとのまとめ記事や、20作分の放映リストなど、資料としても大充実。

エグゼイドの時も似たような書籍が出されていますね。

 

「仮面ライダー」超解析 平成ライダー新世紀!

「仮面ライダー」超解析 平成ライダー新世紀!

 

 

 今回特徴的なのは、①ジオウについての証言が多い ②『風都探偵』や漫画『仮面ライダークウガ』『小説仮面ライダー』シリーズなど、他媒体のメディアミックスについてガッツリインタビューされている、の2点でしょう。特に2点目についてまとめたものはこれまであまり無く、大変新鮮でした。三条さん×塚田Pが語る『風都探偵』、井上敏樹御大が語る『仮面ライダークウガ』、大森Pや高橋さんによる『小説仮面ライダーエグゼイド』。これらを読んだ/読んでいる方は絶対見逃せないかと。

ただ、それについては見送るとして。今回は白倉P、下山さん、田崎監督が語る『仮面ライダージオウ』についての証言から、気になった点をまとめつつ、『ジオウ』という作品はどういったことがしたいのか?現在4話までを見終わった上で考えて行きたいと思います。

 

 

仮面ライダージオウ 変身ベルト DXジクウドライバー

仮面ライダージオウ 変身ベルト DXジクウドライバー

 

 

 

〇『ディケイド』との差別化
 
まずインタビュアーの方も特に重点的に聞かれていたことについて。『ディケイド』と『ジオウ』の差別化でどのようなことを意識したのかという点です。
 
田崎監督曰く、企画の段階では強く意識はしていないそうです。逆に『ディケイド』という並行世界を使う作品がある以上、自然とそちらの方向にはいかなくなる、という部分が大きいようで。また、監督が企画に参加する前に、もうデザインモチーフが時計だと決まっていて、自然に時間移動という形になったということです。
 
ただ、そうなると危険なのが「メタフィクションの落とし穴」。例えば、はたして本当にビルドは「2017年の仮面ライダー」なのか?「2016年の仮面ライダー」がエグゼイドだとしたら、2017年には戦っていないのか?というメタフィクション的な考え方ですね。視聴者としてもほとんどの方が感じられていたと思うのですが、ここにスタッフ一同頭を悩ませ、かなり用心深く企画を進めていたようです。このメタフィクションの落とし穴」を考えることが、『ジオウ』の設定のスタート地点だったと監督は述べられていました。
 

白倉Pも、「なぜ年で区分されているのか?」をちゃんと設定のなかに盛り込むために、企画会議をしまくってホワイトボード恐怖症に(笑) 会議も「それは無理だ!」の連続で、『ディケイド』の時と比べられないほど困難を極めたということです。だからその苦労の結晶としてできた物語が『ジオウ』なわけです。その点に白倉Pが以前言われていた「レジェンドから逃げない」(参照:平成仮面ライダー20作品記念公式サイト | 東映)という意気込みを感じられます。

 

 
ただ近年の冬映画等での作品間の世界観融合についてはそこまで意識していないそう。何故なら、子供たちを中心に『ビルド』は『ビルド』、『エグゼイド』は『エグゼイド』で楽しんでいる視聴者がほとんどだから。なので作品間のクロスオーバーまで全て回収しよう!というよりは、『ジオウ』と各作品、1対1で絡めるとどのように整合性を取ればいいのか?という点に重点が置かれているのだと考えられます。(まあ、次回555×フォーゼという2作品との整合性という難しい描き方もするみたいなので、注目したいところです)
 

仮面ライダーディケイド Blu-ray BOX

 

 
〇「脚本家として仮面ライダーのことを知らない人がほしい」
 
『ジオウ』の脚本家に、なぜこれまで平成ライダーシリーズにほとんど関わってこなかった下山健人さんが選ばれたのか。私自身も「ゴライダー良かったし期待できる!」と思いつつも、どこか疑問には思っていました。下山さんが選ばれた理由は、ライダーのことを知らない人の方が、メインターゲットである今の子どもたちの目線に一番近いから。これは主に白倉Pの考えなようですが、説得力を感じました。少し引用します。
 
 
―白倉さんは「脚本家として仮面ライダーのことを知らない人が欲しかった」とおっしゃっていました。
 
下山 あー!なるほど、それは腑に落ちますね。僕ももちろん過去作品を観て勉強したりもしていますけど、あくまでも「『仮面ライダージオウ』のスタッフ」という立ち位置での、設定の把握・理解や解釈になるんですよ。これはリアルタイムで過去のライダーを観てきた熱心なファンの方たちとも、当然ちょっと違う視点だと思うんです。ゲストで歴代のライダーが出るなら、放映当時の思い入れを反映させるべき……とはなると思うんですけど、1年間のテレビシリーズを、ずっとその視点でつくるとなると、今の子どもたちはついていけないですよね。メインとなるターゲットが過去のライダーを知らない今の子どもたちだって考えると、それじゃ駄目かもしれません。(中略)
 
僕がもし、過去にライダー作品に参加していたとしたら、そのライダーが出てきた時に、どうしてもそれをほかのライダーたちよりも大事にしちゃうと思うんです。そういう贔屓目で見ることもないという意味で、ライダーを知らない脚本家というのは、たしかに必要でしょうね。
 
・『平成ライダー20作記念!「仮面ライダー」2000-2018全史』(P64)
 
 
また、白倉Pの発言も。
 
白倉 今回、脚本には全体を客観視できる人が欲しかったんです。井上敏樹さんや小林靖子さん、平成ライダーを何本もやってらっしゃる方だと、逆に難しい。なので、ヒーロー作品には参加しているものの、平成ライダーにはそこまで詳しくない下山さんに依頼しました。
 
・前同(P72)
 
 
つまり、メインターゲットの子どもたちのことを考えると、客観視ができる人の方が適している、という判断。確かに記念作品だからといって、過去作品に関わった方が書いたり、あるいはその方々でルーティンを組んだりしても、『ジオウ』という作品単体としての面白さは成りたたないかもしれません。
 
例えとしてよくないかもしれませんが、『平成ジェネレーションズFINAL』の映司とアンクは、上堀内監督渡部秀くんのの思い入れが強すぎた分、どうも『オーズ』色が強くなりすぎていました。私は『オーズ』が大好きなのでもう号泣していましたが...もし仮に『ジオウ』本編でやられたら、子供たちはついていけませんよね。(もちろん、靖子にゃんならそういうことしないとわかってはいますが)
 
そういう意味で、あくまで「記念作品」ではなく『ジオウ』という一つの作品を優先させた結果の采配ということなのでしょう。
 
ただ、そうとはいえレジェンドはたくさん出演。下山さんの負担は計り知れないということで、白倉Pは「かわいそうですよ、下山さん」と(笑)
 
毎回1~4話のように、レジェンドが出演して、記憶を失って、アナザーを一緒に倒して受け継ぐ。そのような流れをルーティン化させても、お客さんが慣れちゃって「本人が出て当たり前だよね」と思われてしまう。そのため、次回のフォーゼ×555編もそうですが、あらゆるパターンを考えているようで。やはり下山さんは大変だ、ということになってしまいました(笑) 今後もハードルが下がらない中で、どのように物語を転がしていくのか。下山さんの手腕に期待したいと思います。
 

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奥野壮への期待
 
また、主役の奥野壮くんへの期待が凄い。
 
田崎 (前略) 役者って、人の声を聞くために外からなかへのチャンネルを開くと、自分の心情を表現するための、なかから外へのチャンネルも開くんですよ。誰かが用意したセリフを喋るのは、役者の仕事じゃないんです。生瀬さんに現場で対面した際に、奥野君が「こう言いたいな」っていう思いになった時、初めてソウゴのセリフが生まれるべきなんです。奥野壮は、そういうことができる役者ですから。
 
・前同(P63)
 
白倉 ……すごいですよ。主人公の常盤ソウゴは、「普通の高校生」と紹介しつつ、とても特殊な設定なんですが、奥野壮という役者がいなければ、ああいう設定にはならなかったと思う。(中略) ソウゴはわかりやすい「俺様キャラ」でなく、世間から遊離して、どこか王様みたいな目で世の中を睥睨している。それを奥野壮は、ちゃんと表現できるんです。
 
・前同(P74)
 
 
という感じで、期待がバシバシ伝わってきます。白倉Pなんか、「奇跡という言葉すら当てはまらない」「『これやばいぞ!誰の差し金だ!?』」とまで。実際私が4話が見てきた感じからは、まだあまり伝わってこないのですが、ただ「「俺様キャラ」じゃなくてもレジェンドと渡り合えてる」という点はとても納得。今回4話では永夢に対し、「医者の仕事は永夢に任せた!」という感じで話していましたが、違和感を感じませんでしたし、「後輩感を出しながら、対等な立場をとれるキャラ」というキャラ造形はとても伝わってきたなと個人的に思います。今後がますます楽しみになってきました。
 
 
役者インタビューでも、「今まで撮影した範囲のなかで会心の出来だと思うシーンはありましたか?」という質問に、ゲイツの押田くんは「自分の出せるものは全部出しているが、まだひとつもない」と謙虚に答えていますが、奥野くんは「全部会心の出来だと思う!」という。そのようなどんな壁も恐れないポジティブな姿勢が、ソウゴに活かされてるんだなあと感じられるインタビューでした。押田くんと奥野くんがかなり対照的な役者さんだということもわかるインタビューでしたので、こちらも興味があればぜひ。
 
 
〇オリジナルキャストとどう向き合うか?
 
最後に、オリキャスとは今後どう関わっていくのか?「レジェンドから逃げない」と豪語されていたので、この点は気になっていたのですが、言及されていました。
 
白倉 オリジナルキャストの出演は、絶対の決めごとにしてはいません。平成ライダーの登場には、ジオウへのアイテム授与という、過去のライダーから現在のライダーへのバトンタッチ的な儀式の要素がある。ただ、バトンタッチの儀式がないとアイテムが手に入らないことにしてしまうと、展開が縛られます。なので、抜け道は用意してありますね。それと、この「平成祭」みたいな展開、じつはそんなに長く続かないかもしれません。過去19作あるので、2話1エピソード構成で1作ずつ触れていけば、38回はできるんですが……それは今年いっぱいでいいかもしれない。
 
・前同(P73)
 
 
...う~む。これを読む限りだと、全作品から必ず1人は出演する!ということにはならないようです。ちょっと残念。抜け道、というのはディケイドの活用辺りでしょうか。一応「まだ先は長いし未定」と仰ってますが、スタンス的にずっとレジェンドキャストが出演し続けるということを貫くことはなさそう。
 
ただ、御三方の証言を統合していくと、『ジオウ』の狙いというのは、①時間移動して各ライダーの時代を巡り、レジェンドと向き合う ②メインターゲットである子供たちには、あくまで『ジオウ』の物語を見せる、という点であり、前者のレジェンドとの向き合い方とは「オリジナルキャストを出す」と必ずしもイコールではないということなのでしょう。とにかく『ジオウ』の物語として魅せることが中心で、バトンタッチの儀式のために物語を動かすわけではないと。
 
だから『ディケイド』のような話ではない、と割り切ってしまった方がよさそうですね。『ディケイド』は2話1エピソードでバトンタッチをするというルーティンで物語を続けましたが、あれが成り立ったのは「『ディケイド』には物語がない」から。でも、『ジオウ』は将来オーマジオウとなってしまう可能性があるので、それを止めなくてはならないという物語があります。バトンタッチの儀式を優先することで物語をおざなりにしてしまっては、子どもたちの関心は削がれてしまう。そういう方針が『ジオウ』のようです。
 
以上が、現在最も新しいものと思われる、『ジオウ』に関するスタッフ御三方の証言でした。白倉Pのスタンスや下山さんの苦労、田崎監督の目線など、興味深い話が盛りだくさん。ここでは伝えきれない部分もたくさんありますので、スタッフのお話に興味がある方は是非とも購入されてみてはいかがでしょうか。
 
また最後に、個人的にオススメな平成ライダー関連のインタビュー本を軽く紹介して終わりたいと思います。

 

 

 今回紹介したものと似たようなムック本。スタッフ証言と、過去ライダー紹介。さらには怪人のデザイン集・DXベルトの設定画集などもありますので、造形が好きな方も楽しめるムック本です。

 

 

語ろう!クウガ・アギト・龍騎 【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】

語ろう!クウガ・アギト・龍騎 【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】

 
語ろう! 555・剣・響鬼 【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】

語ろう! 555・剣・響鬼 【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】

 

 

こちらは逆にインタビューだけで構成。高寺P・白倉P・井上敏樹氏ら定番スタッフだけでなく、『龍騎』でファムを演じた加藤夏希さんや555の半田健人さん、ウルトラセブンであり『剣』で悪役・天王寺を演じた森次晃嗣さんら俳優陣、RHYMESTER宇多丸さんや『のだめカンタービレ』の二ノ宮知子先生らファン層など、あらゆる視点から初期シリーズを語りつくそうという、裏方オタクは垂涎ものな一品。

個人的に、『鎧武』のメイン脚本・虚淵玄さんのインタビューを2冊通して読まれることをお勧めします。1冊目の時は「仮面ライダー」を書きたい!と言いつつ、実は『鎧武』のオファーを受けてる時だった、という時期のものなので、そう考えながら読むと面白いです。

 

証言!仮面ライダー 平成 (キャラクター大全ノンフィクション)

証言!仮面ライダー 平成 (キャラクター大全ノンフィクション)

 

 

講談社の『平成ライダーシリーズMOOK』に掲載されたインタビューを集め、再録したものです。なので前後のつながりはあまりなく読みづらさはありますが、人数はとにかく多い。『鎧武』以降は止まってるので、続きがほしい。昭和版もあります。

 

証言!仮面ライダー 昭和 (キャラクター大全ノンフィクション)

証言!仮面ライダー 昭和 (キャラクター大全ノンフィクション)

 

 

  

 

 

 

 

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(追記 9/23 15:48)

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