零れ落ちる前に。

その時々感じたことを、零れ落ちる前に。

仮面ライダージオウ EP35「2008:ハツコイ、ウェイクアップ!」/EP36「2019:ハツコイ、ファイナリー!」感想

何時の間にやら7月。夏がやってきました。というよりは梅雨ですが。早く青空を見上げたいものです。

 

『ジオウ』も最終幕へ。令和最初のライダーの発表も来週ということで、平成ライダーも遂に幕を下ろすのかあと、寂しい気持ちになってきました。『ジオウ』も終わるんやね、早いね......。この別れと出会いの狭間にいるかのような季節の寂しさには、何年経っても慣れません。

 

さて。この感想記事は最新の第42話...と思いきや第35話・第36話。『キバ』編です。放送日は5月初旬なので、か~な~り開いてしまいました。その間には熱血漢と貧血な兄弟が隕石と共にやってきたり、シリーズ1騒がしい鬼達と椎茸嫌いのお兄さんが汽笛を鳴らして現れたり、はたまた時がリセットされたディストピアにソウゴが打ちのめされたりと、急展開の数々でしっちゃかめっちゃかでした。もう『キバ』編なんて遠い昔のお話のよう。しかし、最新話に辿り着くためには通らねばならぬ道です。

 

 

何故『キバ』編で記事が途絶えてしまったのか。その理由には初めての社会人・初めての一人暮らしに一杯一杯だったからとか、ハロプロにどっぷり浸かってしまったからとか、色々思い当たる節があります。しかし一番の理由は、『キバ』編にハマれなかったから。このしこりを消化できないまま、今に至ってしまったわけです。

 

基本的にずっと楽しめてきた『ジオウ』ですが、何故『キバ』編にだけは好意的になれなかったのか。ズバリ、井上敏樹脚本だったから、でしょうか。いや、私、井上先生のこと大好きなんですよね。好きなライダーを挙げると1位には『555』か『龍騎』が確実にランクインするし、村上幸平氏や白倉伸一郎氏を通して語られる御大の懐の広さとか、作品に込める志の高さとか、色んな面に対して尊敬の念を抱いています。だから「脚本:井上敏樹」という名を見ると、作品を観る前から心が高ぶってしまう。井上作品を愛しているのは確かです。

 

語ろう! 555・剣・響鬼 【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】

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「志」を語る御大が熱いインタビュー本

 

だけど、しかし。今回の『ジオウ』の『キバ』編。どうも井上脚本と『ジオウ』という作品とは食い合わせが悪かったように感じ、受け入れる事が出来ませんでした。それがどうしてなのか、心の傷に塩を塗る行為にはなりますが、キバって参りましょう。

 

 

 

 

 

 

『キバ』と初恋

仮面ライダーキバ』という、歴代でもかなり「大人向け」な作品。はや10年前の作品ですが、今見返しても攻めた作風で、かといってやはり『電王』の後ということで重くもなり過ぎない、中々難しい味わいの作品でした。昼ドラのような重たい愛の物語であったり、ファンガイアと人間の血と血を争う物語であったり、一方で「イクササ~イズ!」とか極限までふざけたり*1。忙しい番組ですが、やっぱりメインは「大人の愛の物語」だったと思います。

 

その物語の中心にいた、紅音也というちゃらんぽらんな男は、常に女性を求めていました。天才バイオリニストで、音楽を愛する心は誰よりも純粋に持っていたけど、世間からしたら彼の生き様は不純も不純。だから、多くの人に嫌われる存在でもありました。ただ一方で、彼の本質に気付いた者だけは最後まで付いてきてくれた。だからこそ、「誠実な男」という印象が、父を知らぬ渡に伝えられたのでした。今や「カズミン」でもある武田航平が演じる、最も不純でかつ最も熱い男が見せた「愛の物語」は、多くの人々の心を打ちました。

 

まあ、勿論それ以外にも見所はありますが、『キバ』といえばやっぱりこれ。だからその重厚な恋愛要素を『キバ』編に持ち込んだのは井上先生らしいし、正解だったと思ってます。しかし、その要素として描かれたのがソウゴの初恋だったのはまだしも、お相手が北島祐子なる、言ってしまえば狂人だったのがスッキリしなかった。

 

釈由美子さんが演じる北島祐子なるキャラクター。開幕留置所で登場したと思えば、男の匂いを嗅いで昨日飲んだワインの種類を判別したり、自分本位であることを窺わせる強い口調を使ったり、そんな印象だからこそ正直あまり説得力の無い「私は冤罪だ!」という言葉を狂ったように叫んだり......。何から何まで濃厚で、エキセントリックな様を朝から見せつけてきました。もうアブラマシマシすぎて。冒頭では「あっ、井上敏樹だ!」と興奮しましたが、彼女の言動に徐々に心は擦り減っていくという。正直、キツかった。

 

この『キバ』編を観終わった後に残った感想が、「北島祐子が酷かった」でしかなかったのがただただ悔しい。結局彼女の「冤罪」は全て妄想だったし、ソウゴの初恋の相手=セイラさんだったというのもフェイク。彼女は、現実と妄想の境目分からない位に、自分を嘘で塗り固めてしまったからああなったんだと思います。こう書くと魅力的に狂った人物像ではありますが、その狂った相手にソウゴが惚れるというのが、なんとも不相応。「傘になれ」という遺言を残し死に行く姿も、(おそらく)本物のセイラさんは別にいたというオチも、「北川祐子、結局何だったの......」としか思えなかった。

 

ただ、もし彼女が『キバ』本編に登場する人物だったら。周りを囲むのが音也やゆり、次郎だったら。対立するのがチェックメイトフォーだったら。はたまた現代で渡たちが出会う相手だったら。正直あまり違和感はありません。だから井上先生が描いたキャラクターとしては納得感があるんです。結局のところ、『ジオウ』に彼女が登場したという点に、とてつも無い違和感を感じたのがノれなかった原因なのかと思います。『キバ』の一篇なら正解だったけど、『ジオウ』の『キバ』編としては不正解だった。そんな印象。(それって逆にいえば井上敏樹の個性・『キバ』というレジェンド作品が『ジオウ』を乗っ取ることができていた/レジェンドとしての存在感を遺憾なく発揮できていた、とも言えますけど。うーん、完全に乗っ取ってしまったから受けつけなかったのかもしれない)

 

 

仮面ライダーキバ Blu-ray BOX 3<完>

 

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さらに言えば、あのマンホールは悪手だった。ただでさえ濃い味付けなのに、まだ足りんと言わんばかりに北島祐子に注ぎ足された狂気。アナザーキバの武器として使われるなら「あ~、地の利を活かした戦い!」と興奮すると思うんですけど、何と生身で持つっていうね。ギンガの超弩級の技をノーダメージで防ぐ。他人の結婚式でフリスビーの如く投げつける。しまいには、殺人の凶器として使用する。彼女のアイデンティティとして機能させたかったのはわかるけど、殺人にマンホールを使うのはいくらなんでも絵面に無理がありすぎる。井上先生というよりは田村監督の発案なんじゃないかと思いますが、あの演出は受け付けることができませんでした。

 

タイムジャッカーを含むレギュラーメンバー全員をしもべの様に扱い、振り回す様は面白かったですけどね。スウォルツさんが結構素で戸惑ってたし(笑)

 

 

 

ギンガと販促と井上敏樹

もう一つの悪手。それはこの『キバ』編に「仮面ライダーギンガ」という要素をのっけてしまったこと。これに関しては、白倉Pら企画陣が何考えてんのというお気持ちに。ていうか、結局のところ井上先生は何も悪くない。可哀想。ただでさえ販促をあまり気にかけない先生のパートにギンガをぶつけるなんて。まあ、裏方の事情はわからないんで何とも言えないんですけど。

 

ギンガも結局何だったんでしょうかね。エイプリルフールの頃に発表された時は「未来ライダー」の1人として、シノビ・クイズ・キカイと肩を並べる存在だと思っていましたが、蓋を開けてみると「純粋に強大な力」としか描かれなかったし、結構あっさり倒せちゃったし、誰だったのかさっぱり分からないし。何ならCV杉田だし。キバット出せよ

 

公式で語られた情報が少なすぎるため、仮面ライダーギンガの存在について考察できることは特になし。そこも問題かと思います。「ウォズの強化フォームを出したかったから出した」という裏方の思惑が透けて見えるかのような、全体的に雑な処理。そして雑なウォズへの力の継承。圧倒的な力といいつつ、トリニティの間の悪いおふざけやマンホール防御のせいで砕かれてしまった最強神話。いやまあ、創られてもいないお話ですけども。ギンガの登場をそこそこ楽しみにしてたので、残念です。

 

『アギト』『555』『キバ』と、これまでの井上作品を観ていれば、強化フォームや新ライダーベルトの登場といった2期以降の販促方法と井上先生のやり方ではミスマッチを起こすことは分かっていたはず。なのに何故ギンガを井上先生に投げてしまったのかなあ。

 

更には、紆余曲折を経てウォズが手に入れたギンガの力に関しても不満が。何でギンガファイナリーの位置づけが、ジオウⅡやゲイツリバイブ、トリニティに近いのかが謎です。未来ライダーと同列の認識だったのに、アナザーキバを撃破できちゃうっていう。以前までの設定通りなら、アナザーキバを撃破できるのはキバの力だけ。もしくは、ジオウⅡやゲイツリバイブ、トリニティといった上位の力。こういう前提を普通に崩しちゃったギンガの「強大な力」というふんわりとした設定も、『ジオウ』にそぐわない要素だったのではないかと感じました。あと単純に、キバアーマー見たかったなあ。ここにきて通常のアーマーで倒すのも燃えるじゃない。

 

ただ、この疑問については、「オーラが見限ったから」とも説明できちゃうので、やっぱり北島祐子という変身者が厄介すぎたんだな~。はあ。

 

 

 

『キバ』流・田村流

とはいえ、見所はもちろん沢山ありました。第35話・36話は『キバ』の世界観を醸し出すために、田村監督流の様々な工夫・オマージュが施されていました。

 

まずは『アギト』編、『響鬼』編から徐々に見られるようになった、当時の音楽・演出の活用。「BELIEVE YOURSELF」を戦闘シーンで使ってから思い切りがよくなったのか、『響鬼』編でも1期OPの「輝」が登場。そして今回は「音也のエチュード」が随所随所で響き渡りましたね。本編より使用回数多かった気がするぞ。

 

 

音也のエチュード

音也のエチュード

  • provided courtesy of iTunes

 

音也が出てないのに何で流すねんって不満は各所で見られましたが、自分は『キバ』といえばこの音楽だと思っているので、田村監督がチョイスしてくださって嬉しかったです。

 

それと、フィ~~ヨォォ~~というSEとともに画面が反転し、年代が変わる演出。こちらもまんま『キバ』。先ほどオマージュと書きましたが、そのまんまの持ちこみですね。『ジオウ』は『平ジェネFOREVER』でも、クウガ流・電王流の時間テロップをわざわざジオウ流のものと区別して使うところにこだわりを感じるので、キバ流の演出も当然のようにやってくれて嬉しかったなあ。心が一気に2008年に戻る。

 

 

唯一のレジェンドキャストとして登場した次狼/ガルルが、バッシャー、ドッガと共にアナザーキバに従い、女王の下で戦う構図もいかにもでした。彼らの活躍っぷりは本編以上で、報われたような気分に。そうそう、アナザーキバの造形も思いっきりバットファンガイアで、アームズモンスターと並べると完璧なんですよね。並んでいてあんなに「エロい」って思う怪人集団ってなかなかないよ。やっぱ篠原保デザインは最高だな。出渕さん・篠原さんのアナザーライダー画集、早く欲しいです。

 

田村監督流を一番感じたのは、やはり第35話冒頭の留置所のシーンでしょうか。わざわざ左上に番組ロゴを出さないといけないくらい、刑事ドラマ的なワンシーン。あの「別の番組が始まった感」は最高でしたね。基本的に暗い画面とか、雨のシーンがやたら多かったりとか、一方でセイラさんとの思い出カットではキラキラさせたりとか。ここ最近の日曜朝ではあまり見られない硬派な絵面に、懐かしさを覚えました。

 

話はずれますけど、コントシーンも良かったな。『キバ』臭、かつ『カブト』臭がするコントでした。井上先生といえばやっぱり食事ですね。キャラ崩壊は激しかったけど(笑)

 

 

 

 

以上、第35話・第36話感想でした。ようやく供養できた。これで前に進めます。『カブト』『電王』そして『ジオウⅡ』編まで道のりは長いですが......。明日の最新話には間に合わないので気楽に行きまっしょい。

 

『キバ』編が何故合わなかったのか。北島祐子への嫌悪感、ギンガの消化不良感、『ジオウ』の『キバ』編としての不相応感などなど、色々理由を挙げてきましたが、結論を言ってしまえば、「井上敏樹脚本へのリハビリが足りなかった」ということになりましょうか。もし『ジオウ』本編で下山・毛利脚本の他に一度でも井上脚本が入っていれば、もしかしたら少しは印象が変わったかもしれない。

 

長らくニチアサを離れていた御大の、ギンガのような突然の襲来。脂のたっぷり乗ったいつもと違う『ジオウ』に耐えることができず、素直に楽しめなかった自分を悔やみつつ、筆を置きます。

 

井上先生、次いらっしゃる時はどうか、じんわりゆっくり入ってきてください。

 

 

 

*1:あくまでハイパーバトルDVDでの一件ですが、本編終盤の名護さんの壊れっぷりはこれに匹敵する狂気を感じた