ついにこの日が来る。
2019年8月10日(土) 午前10時30分。
燦々と燃える太陽と、あまりにも眩しい青空が広がる国営ひたち海浜公園の中で、最も広く、最も熱いステージ。「GRASS STAGE」と名付けられたその地には、猛暑にもかかわらず、6万もの人間が所狭しと集う。
彼らの視線は、大きな大きな舞台に立つ、11人の少女達に向けられる。マイクを片手に髪を振り乱し、とびっきりの笑顔をふりまき、全力で舞う少女達。あんな小さな体のどこに集まっているんだというくらい膨大なエネルギーを解放して、ひたちなかの空気をさらに熱くする。
少女達の名は、モーニング娘。’19。灼熱のひたちなかに返り咲き、世界を震わせる。
「黄金期」の呪縛
モーニング娘。は過去の栄光。実際この世界に飛び込む前までは、失礼ながら自分もそう思っていた。「LOVEマシーン」「恋愛レボリューション21」「ザ☆ピ~ス!」「そうだ! We're ALIVE」と次々とヒット曲を打ち出し、カラオケの定番となった00年代初頭。年がら年中テレビに引っ張りだこ。派生ユニットの「ミニモニ。」は子どもにも大人気。確実に天下を獲っていたからこそ、印象が強いのも無理はない。
黄金期の先にある「プラチナ期」。高橋愛、新垣里沙、亀井絵里、田中れいな...と逸材が名を連ね、力強い歌唱力と激しいダンスが持ち味の「アスリート集団」として仕上がっていった。
「ちょうどその時期くらいから、他のアイドルグループが増えてきた。次第に“アイドル戦国時代”と呼ばれる状況になっていくのですが、ある時つんく♂さんから『こういう時代だからこそ技術をつけろ』と檄(げき)を飛ばしていただいたことがあって、『とにかく格好よくしなきゃ!』という気持ちが強くなっていきました。その頃から、つんく♂さんが作ってくださる楽曲も本当に格好いい歌詞やサウンドが多くなってきました」
メディア露出が重視され、音楽番組での“口パク”も見受けられたアイドル戦国時代に、あえて歌やダンスの技術向上にかじを切る。このつんく♂の英断が、プラチナ期を育てたわけだが、当時の世間から見ればあくまで“黄金期メンバーが抜けたモーニング娘。”であり、人気はなおも下降線をたどる。当然、過去とも比較された。
「私たちも先輩方のモーニング娘。の曲を聴いて、憧れて加入したので仕方ないと思っていましたけど、やっぱり悔しかった……。悔しかったですけど、つんく♂さんの言葉を信じていました。コンサートの数は増えていましたし、シングルのリリースイベントもやるようになって、ファンの方たちとの絆は深くなっていったと思います」
ここで「黄金期」とはひとつの差別化が図られたが、世間にとってのモーニング娘。は「黄金期」でしかなかった。そして、世間の目線は違う方向に向いていた。
秋元康率いるAKB48。「会いにいけるアイドル」をコンセプトに、イマドキの子達を集め、一気にアイドルの頂点に立ったグループを前にして、モーニング娘。はお茶の間から消えてしまった。
プラチナ期が終焉へと向かうと、残った田中れいなや道重さゆみは9期、10期、11期.....と入ってきた後輩達を育て、後にエースとなる天才・鞘師里保を主軸に添えて、「新生期」へと舵を切る。
残念ながら鞘師はすぐにいなくなってしまったが、その時代に育った9期~11期には、歌の小田さくら、ダンスの石田亜佑美、奇才・佐藤優樹、アクロバティックな生田衣梨奈、バランサーの譜久村聖......と逸材が揃った。そして、その後加入した12~14期と共に、着々と努力を重ねてきたモー娘。は、今まさに成熟を迎えている。チームのバランス感はピカイチだ。
しかしそれでも、世間的な注目度ははっきり言って低い。日テレ系の『音楽の日』やTBS系の『CDTV』では深夜枠、つまり録画出演ばかり。先日の『梅沢富美男のズバッと聞きます!』ではモー娘。特集が行われたが、OGが出演して「黄金期はこうだった!」と語る流れで構成されており、現役メンバーへの触れ方も「黄金期ありき」のものだった。
先輩達の積み上げてきた歴史があるからこそ、今のモー娘。があるのは間違いない。
だが、それにしたってもう20年前のことなのだ。瞬間瞬間を必死に生きている、「今のモーニング娘。」をもっと特集してほしい。黄金期のVを見せてコメントさせるだけのアイドルにしてほしくない。モーニング娘。は終わっていないのだ。
LAKE STAGEで残した確かな爪痕
ちょうど1年前、モーニング娘。にとってある転機となるライブがあった。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018、通称「ロッキン」へ、モーニング娘。'18が初出演することが決定したのだ。
「ロッキン」は他の夏フェスと比べて、参加アーティストのジャンルの幅が広い。ロックバンドに限らず、シンガーソングライター、DJ、アニソンミュージシャン、V系、アイドル...と日本のあらゆる音楽を雑多に掻き集める、「日本の音楽の祭典」である。今年なんかはYouTuberのFischer'sまで迎え、良くも悪くも話題となった。ロックの定義を狭めない姿勢に、個人的には非常に好感を持っている。
そんな「雑食系夏フェス」だからこそ、アイドルの参戦は全く珍しいことではない。しかし、モーニング娘。が出演したことはなかった。アスリートな彼女達だから、絶対に素晴らしいステージで魅せる事ができるのに。先立って参戦したアンジュルムに続いて、大勢のロックファンの前に立つ少女達の姿を、ファンは想像したはずだ。
その夢が、20周年の年にようやく叶った。しかも、1万人のキャパを誇るLAKE STAGEである。ちょうど入口に近いこともあり、知らない一般層のお客さんも取り込みやすい。「今のモーニング娘。の実力を世間に知らしめよう」。彼女らは大いに燃えた。
モーニング娘。初のロッキン出演で、"フェス"というものに参加するのが、私たち初めてでして、どんなノリでやればいいのか、どう煽ったら盛り上がるか、うん、正直、正解は分かんないけど!やってやる!!!という気合いだけは十分すぎるほどあり、今のモーニング娘。を見てもらうんだ!!!っていう気持ちを、12人でぶつけさせていただきました#ロッキン モーニング娘。'18!石田亜佑美 | モーニング娘。‘19 天気組オフィシャルブログ Powered by Ameba
モーニング娘。'18メンバーは初参加ですし、どれくらいの方が見てくれるかな?という不安や、暑さとの戦い。それ以上の楽しみやドキドキだったり色んな気持ちでいっぱいでした限られた時間の中でどれだけ皆さんの心を掴めるかの勝負ですが、いつも通りの私たちで居ることも今日の目標でしたステージで全力出さないなんて無理だもんだから本番前は必死に自分を抑えてましたLAKE STAGEに上がると沢山の方が…

ベスト!モーニング娘。 20th Anniversary (初回生産限定盤A) (Blu-ray Disc付) (特典なし)
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LAKE STAGEの伝説的な40分は、こちらのベストアルバム初回Aに収められている。是非ご覧あれ。
大舞台への歓喜と、予想外の苦難
そして今年。2年連続の出演決定にファンは湧いたが、更なるサプライズが待ち受けていた。
「GRASS STAGE、トップバッターでの出演決定!」という驚くべき一報である。
GRASS STAGEはロッキン、ひいては夏フェス史上最大のキャパを誇る大舞台。なんと6万人もの人間が集まることができる。今年のメンツを見ると、ゆず、ゴールデンボンバー、SEKAI NO OWARI、サンボマスター、BUMP OF CHICKEN、ポルノグラフィティ、スピッツ......と、誰もが知るような錚々たる面々が並ぶ。これだけでも、ステージの注目度の高さが窺えよう。
ここに、3日目のトップバッターを任せられたのが、かつて栄光を誇ったモーニング娘。である。同じアイドルでも、欅坂46、ももいろクローバーZという、世間的にも人気が高い2組がGRASSを任される中、モーニング娘。が立つことの意味は、あまりにも大きい。このステージは、間違いなく伝説になる。メンバーも気合十分だった。
更に、皆さんに嬉しいお知らせです聖たちメンバーは初めて知らされた時泣いて喜びました。8月10日に出演させていただく「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」ですがステージと時間が発表されました!10:30〜グラスステージですあの、グラスステージに立てるんですかあの日憧れたステージに本当に本当に嬉しいですロッキン行くよ!って言ってくれた方がZDA沖縄にもいらしたんですよ南から北から沢山の方がいらっしゃるそれだけ凄い楽しい盛り上がるフェスの舞台に立たせてもらえるなんてぇえそれもグラスステージですよ•̥ ̫ •̥今はまだ頑張るとしか言えませんが更に気合が入ります皆さんに楽しいステージをお届け出来るようにめちゃくちゃ頑張るから
今日!ロッキンのタイムテーブルが発表されました!なんと今年、モーニング娘。'19は、、GRASS STAGEです!!!!!泣きながら喜びました、、ヽ(;▽;)こんなに大きなステージに立たせていただける、しかも野外で、こんなに嬉しいことはありません、メンバー全員気合い入りまくっていますので、是非楽しみにしていただけたらと思います!!
しかし、思いもよらぬ事件が起きた。
7月10日、モーニング娘。'19の歌姫・小田さくらが、「頸椎椎間板症」と診断されたのだ。
アイドルとして8年、これまで一度も怪我や病気をしてこなかった小田が、初めての危機を迎えた。誰よりも自分に厳しくプロ意識の高い彼女は、非常に悔しかっただろう。夏のハロコン、握手会、その他諸々の舞台に立てなくなったことが。
「約1か月の安静加療が必要と診断」されたとあったが、彼女がいつ復帰するのか、そもそも今後アイドルとして続けていけるのか...という心配があった。怪我や病気で引退したアイドルは、過去に山ほどいる。
彼女が欠けるという事実は、グループにとって大きい。しかし一方で、他のメンバーを掻き立てた。「小田がいない分をカバーする」と、これまで以上に全力のパフォーマンスを発揮した。
特に石田の小田に対する信頼は厚い。「小田なら絶対戻ってくる!」と、何度もSNSで、小田や石田自身、そしてファンを鼓舞してくれた。日々のハロコンだけでも大変だろうに、こうやって気持ちをこちらに向けてくれるのは本当に嬉しい。
「歌姫」と呼ばれる彼女の美声は、今のモー娘。の必須条件。ロッキンという、モー娘。を知らない世間を相手にするなら尚更だ。だが、他の10人の力も負けていない。得意のフォーメーションダンスで、観客を湧かす。この道を極めたプロは、ここ数年で格段に逞しくなった。
新メンバーが入る前の集大成のステージは、たとえ小田さくらが欠けても大丈夫。そんな安心感があった。
GRASS STAGEに立つのは、小田が欠けた10人か、それともフルメンバーか。エース不在の全員野球か、エース帰還の完全勝利か。
どっちに転んでも少年漫画的で熱い展開。不謹慎ながらそう思った自分がいる。
また、小田の今後のアイドル人生を想うと、ここで復帰が吉か凶か......。という不安も渦巻いた。
とにかく、感情がごちゃ混ぜで、息苦しい1ヶ月だった。
そしたら、
モーニング娘。'19小田さくら活動再開についてのお知らせhttps://t.co/LpAPx9oFkd#morningmusume19
— モーニング娘。'20マネージャー (@MorningMusumeMg) 2019年8月8日
モーニング娘。に戻ります!
https://ameblo.jp/morningmusume-10ki/entry-12502653179.html?frm=theme
直前に、奇跡が起きた。
歌姫の帰還。ついに役者は揃った。
そして明日
「黄金期」の呪縛、低迷期、それでも諦めなかったメンバー達の努力、それを見せつけた超満員のステージ、そして掴み取った大舞台。直前に起きた苦難さえもドラマに変え、いよいよ明日、モーニング娘。'19が伝説になる。
この采配は20周年だからじゃないの?と言われるかもしれない。ロッキンもモーニング娘も20年を跨ぐ時期にいる。だからそのオマケで呼ばれたんじゃないかと。しかし、あのLAKE STAGEでの成功がなかったら、この大抜擢は実現しなかったのではないだろうか。実力をフルパワーで発揮し、実力で掴み取ったステージなのではないだろうか。
トップバッターのステージの直前には、ロッキング・オンの渋谷陽一社長による挨拶が必ず行われる。そこで大抵「何故このアーティストをトップバッターに選んだか?」が僅かながら語られる。彼がこの2019年にモー娘。を選んだ訳とはなにか? 願わくば、「黄金期」とは関係ない理由であってほしい。実力に見込んで任せた、と。
かつて道重さゆみは言った。自身の卒業を掲げて立った横浜アリーナという大舞台で、言ったんだ。「私は、この景色を見せてあげたかったんです」。極彩色のサイリウム。ぎっしり詰まった会場に広がる、人々の満面の笑顔。
その景色を、「今のモーニング娘。」が叶えた。道重さゆみが見せたかった景色を、いや、彼女さえも見たことのない「もっと大きな景色」を、自力で叶えたんだ。この景色は、彼女たちにとっても、私達にファンにとっても、かけがえのないものになる。
いよいよ明日、10時30分。伝説の目撃者となれるのが、楽しみでならない!
モーニング娘。'19『青春Night』(Morning Musume。'19 [The Youthful Night])(Promotion Edit)