『SPEC』の地上波電撃再放送が始まってから3週間。本日の「癸の回」を以て、物語は怒涛のクライマックスを迎える。連ドラの3ヶ月とは違って短い期間ではあったが、ハイスピードで物語が展開する本作と短期間は相性が良く、疲弊した体と心が高まる！健康的で刺激的な連夜を過ごすことができた。
2010年の放送当時、Twitterはまだまだ黎明期。リアルタイムで実況している人は少なく、いたとしても大島優一のような日陰者ばかりだったと思う。10年経った今、毎晩 #SPEC で盛り上がる『SPEC』実況。餃子の具のようにネタが詰まりまくったこのドラマと、Twitterの相性は抜群で、私も大いに盛り上がった。関東地区でしか再放送されていないので、毎日トレンド入り！という訳には行かなかったが、静かに一人で楽しんでいたあの頃を思うと充分だ。
2009年～2010年の2年間は、人生の中で最も連ドラを摂取していた時期だった。『ザ・クイズショウ』、『華麗なるスパイ』、『サムライ・ハイスクール』、『左目探偵EYE』などなど、日テレ土ドラは毎週欠かさず視聴。『恋して悪魔〜ヴァンパイア☆ボーイ』や『LIAR GAME Season2』、『泣かないと決めた日』などもドハマりし、火曜と土曜は自分にとっての「ドラマの日」であった。
「人生の中で最も」と書いた割には大して見ていないが、これには訳がある。NHKニュースしか見ない家庭だったのだ。リモコンの主導権は圧倒的に親にあり、よりによってNHK教だったため、テレビが話題の旬である小学校高学年の頃は、ドラマやバラエティの話には全然ついていけなかった。
居間のリモコン権が無いのにどこでテレビを見ていたかというと、風呂である。風呂にテレビがある家庭、世の中にどれくらいあるのかわからないが、我が家には物心ついた時から設置されていた。
風呂にテレビといっても、アラブの大富豪が大浴場に構えるような大型サイズではない。超小型テレビだ。風呂入り時間が22時頃になっても許されるようになってきた中学1年の春、ボリュームを小さくして必死で視聴した『ザ・クイズショウ』。これが私にとって初めての連ドラ体験だったのである。
火曜と土曜、21時もしくは22時からの1時間。手をふやけさせながらテレビにかじりついた体験とリンクして、ドハマりしたドラマ達の内容が今でも記憶に焼き付いている。
サイズ的にはこれくらいだった気がする。実家の風呂TV、昨年辺りに2号機になったため初号機のサイズ忘れちゃったな......
『SPEC』を見始めたのは、途中からだった。正直2010年末はややドラマブームが去っており、元々情報を追うのがそんなに得意ではないため、たまたまBGM的に風呂で流したのがきっかけだったと思う。戊の回、すなわち里中さんの登場回である。
生真面目な坊主と優しげな先輩が妙な乾杯を取り、微笑ましく談笑していたが、後ろの小汚い大食い女の存在に気が付き、坊主が女をどつく。この一連の流れで「変だけど面白そう」と引き込まれ、シャワーを止める。いつの間にか、里中さんの殉職シーンに至るまで画面に没入していた。わけわからんし、ちょっと暗いけど、なんかすげーおもろい。中途半端なタイミングだったが、『SPEC』に目覚めた夜だった。
中学二年。厨二病ど真ん中の時期に『SPEC』に出逢ってしまったらどうなるか。登下校中にこっそり指パッチンをし、時が止まった世界の妄想に耽るイタい患者の出来上がりだ。ていうか指パッチンで時止めとかハマるに決まってる。元ネタの『ジョジョ』を知らなかったため、自分の中での元祖時止め能力者は、一十一だった。もっと拗らせてたらケチャップかなんかを指につけて「王だ」とか絶対やってた.......イタタタタタ。
『SPEC』がズルいのは、真似しやすそうな発動条件が多いところだ。ニノマエの指パッチン、地居のグリグリ、サトリます、ラミパスラミパスルルルルル（手にはレモンの代わりにミカン。そして強くは握らない）。海野のデコ当ては変態的だしやらないけども、「真似したい」と思える発動条件のフックは、多感な時期には効果抜群だったのである。
見始めたのは第5話だったため、物語は一瞬で幕を閉じた。第1話～4話は後々再放送で振り返ることになるのだが、今思えば第5話から一気に物語が動くため、視聴タイミングは正解だったと思う。初期を知らなくても、グイグイ引き込まれ、最終回までの一週間は毎日指パッチンの練習をしながらその日を待った。ニノマエの発動条件は実は指パッチンじゃないよ、って9話で描かれたのにね。それでも好きだったんだよね。
そして来る「癸の回」。癸の回→起の回へと変化する幕開けに高揚した。結構予告で分かりやすく見えているのに、地居がラスボスなんてこれっぽっちも思っていなかった。ニノマエの撃破方法にブチ上がり、ラスボスの暴走っぷりに狂喜し、「時間足りるんかこれ？」とハラハラしながら噛り付いたクライマックス。笑撃の歯弾の後、謎のタイムストップ、地居の撃沈、怪しげに佇む当麻。そして......
この文字が表示され、「波のゆくさき」の優しいイントロが鳴った時。この時の高揚感といったらない。
もし今の時代に初めて『SPEC』に出逢っていたとしたら。もしかしたら、この終わり方に怒っていたかもしれない。投げっぱなしの最終回は今や手垢に塗れた手法である。昨年盛り上がった『あなたの番です』も意味深な投げ方で物語を閉じ、SNS上では物議を醸した。『SPEC』だって、SNS全盛期の今同じように放送されていたら、同じ道を辿っている可能性もあった。
だが、出逢った時期が2010年だったから。風呂場のテレビに齧りつき、毎週のように待ち望んだあの頃だったからこそ、ただただ衝撃と高揚をもって迎えることができたのだと思う。
この後、『SPEC』は翔、天、零、結の漸爻篇まで無事に駆け抜けた。一ファンとして、最後まで十二分に楽しませてもらったし、確かに大風呂敷の畳み方は変だったけど、個人的には好きな締め括り方だった。そこに不満はない。
しかし、やはり連ドラの10話、特に戌の回から癸の回は、他とは比べようのない傑作として今でも頂点に君臨しているのである。
2020年、3週間かけてSPEC熱を再燃させることができた奇跡に感謝し、あの時の同じ気持ちで、また、SNS上のSPECファン達と肩を並べて、最後まで見届けたい。
- provided courtesy of iTunes
- provided courtesy of iTunes
