零れ落ちる前に。

その時々感じたことを、零れ落ちる前に。

『小説 仮面ライダーシリーズ』のススメ。

『小説 仮面ライダー鎧武外伝 ~仮面ライダー斬月~ 』を読了した。舞台『仮面ライダー斬月』の裏側を描く本作を、舞台鑑賞よりも先に読み切るという時系列に反した行いをしてしまったのだが、どちらからはじめても問題ない相互補完的な作品群だった。

 

仮面ライダー鎧武』という作品は、元々「平成1期の空気感をニチアサに戻したい」という制作陣の思いから始まったもので、実際に実現した作風もクライマックスも、続編の余地を残した平成2期の作品群とは相性が悪いように思えた。しかし、いざ蓋を明けてみると、平成2期史上最も続編が生まれた人気作となった。冬映画、『鎧武外伝』シリーズ4作、小説2作、舞台1作。『鎧武』ワールドが本編終了から7年以上も広がり続けるなんて、誰が予想できただろうか。

 

小説『鎧武』も傑作だ。Vシネマ仮面ライダーデューク/仮面ライダーナックル』のその後を描いた、本編以上の大団円。アーマードライダーズが大集合し、歴代ライダーズの面影さえも見えてくるという、小説でしか描けない欲張りハッピーセットな作品だった。『小説 仮面ライダーシリーズ』の存在意義はここにある!といってもいい。予算や俳優のスケジュール、その他諸々の制限を全て超えられるのが小説という媒体だ。そりゃ一介のライダーオタクとしては、この小説が実写になれば万々歳だが、現実問題難しい。頭の中で彼らと再会するのも、また一興ではないか。

 

このように、小説という媒体を最大限活かした試みが『小説 仮面ライダーシリーズ』である。講談社キャラクター文庫が2012年よりひっそりゆっくり続けている、息の長い作品群。ひっそりすぎて「告知ちゃんとして?」と思わなくもないが、高クオリティの作品を出版し続けているのは紛れもない事実であり、信頼できるシリーズだ。現在全19作ある作品をある程度読了した今、作品の性質でカテゴライズしながら、全体を通して振り返っていきたい。

 

 

小説 仮面ライダー鎧武外伝 ~仮面ライダー斬月~ (講談社キャラクター文庫)

 

 

  

 

 

 

①本編完結後の正統続編

第一のパターンは、本編完結後から地続きの世界を描くという、多くのファンが望むであろう正統続編。当時の脚本家やプロデューサーが描くため、当然のようにそのままの「彼ら」がそこに居る。ただ、あまりにも綺麗な締め方をした作品によっては「蛇足」になりうる賭けの手法であるが、そこは流石ご本家。傑作揃いである。

 

 

 

『小説 仮面ライダークウガ』 

小説 仮面ライダークウガ (講談社キャラクター文庫)
 

 

当時のメインライターである荒川稔久が描く正統続編。ン・ダグバ・ゼバとの死闘の後、忽然と姿を消した英雄・五代雄介のことを忘れられない一条薫視点で、13年後の世界が描かれる。現代ーといっても今から7年前だがーに潜む生き残りのグロンギ族が、どんなやり口で事件を起こすのか。それらをおなじみの刑事達がどのように追い詰めるのか。インターネット黎明期の2000年当時にはなかった手段で犯行に及ぶ異形の者と、当時と変わらない熱い刑事達の攻防には、真新しさと懐かしさが同居している。一条さんはかつての敵を追い詰め、五代と再会することができるのか。最後まで見逃せない極上のミステリ小説だ。

 

 

 

『小説 仮面ライダーフォーゼ〜天・高・卒・業〜』 

 

こだわりの鬼、塚田プロデューサーが描いた『フォーゼ』の正統後日談。『フォーゼ』は思い出込みで平成ライダーの中でもかなり上位に来る作品なのだが、贔屓目に見ても終盤の無理やり感には思うところがいくつかあった。そのモヤモヤを全て吹き飛ばし、補完してくれる大団円の最終回が今作だ。発売当時の帯コメントで福士蒼汰くんが寄せた言葉に「まさかのヒロイン、まさかのキス」とあるが、本当に予想だにしなかったヒロインだった。彼女とのエピソードによって、ライダー部の面々は天高を悔いなく卒業し、『MOVIE大戦アルティメイタム』で描かれた未来へと歩みを進める。『フォーゼ』ファンは超・絶・必・見な小説版だ。

 

 

 

『小説 仮面ライダーウィザード』

 

『ウィザード』はきだつよし・香川純子の二人三脚で作られた作品だが、『天下分け目の戦国MOVIE大合戦』が香村版最終回だとしたら、小説版はきだ版最終回である。香村対きだの「解釈の殴り合い」といえる作品群なので、晴人の選ぶ未来に「地雷」と感じる者はいてもおかしくない。だから「これは正統続編です!」と自信を持ってお薦めすることはできないのだが、晴人が抱える闇を本編・映画版以上に色濃く描いた作品なので、一見の価値は十二分にある。私個人の見解としては、大いにありな結末だった。「最後の希望」としての役目を背負い続けた彼には、過去の十字架を下ろして、幸せになってほしいから。

 

 

 

『小説 仮面ライダー鎧武』

 

本編、劇場版、Vシネマシリーズの先にある、『鎧武』最終章。ニトロプラス第二の矢・鋼屋ジンと、シナリオライター・砂阿久雁の筆致には、キャラクターや『鎧武』ワールドへの深く重い愛がある。そう強く感じた名作だった。貴虎、光実、ザックらが主軸となって動く物語は、やがて世界を巻き込み、生死を超えた世界に突入する。小説という手法の「なんでもあり」を余すことなく行使したクライマックスは、涙なしでは読めない。特に呉島光実の活躍は本編を思うと号泣ものである。ぶっちゃけ『小説 仮面ライダー龍玄』と言っていいほどブドウ汁たっぷりだ。『鎧武』のサントラ、主題歌集を総動員して読むべし。

 

 

 

『小説 仮面ライダードライブ マッハサーガ』

 

『ドライブサーガ 仮面ライダーマッハ』の前日譚。この小説を読まないとVシネが今ひとつ楽しめないため、商法としては不親切だな...と思うが、詩島剛の葛藤に心を打たれた者は是非手に取ってほしい傑作だ。本編第27、28話で登場し、剛の心を強く揺さぶった悪人・西堀令子をヒロインに据え、「悪党の父」を親に持った2人の葛藤と決意が丁寧に描写される。大森P執筆とあるが、かなり長谷川圭一色が強いので、「闇のドライブ」が好きな方にはぴったりの作品である。

 

 

 

『小説 仮面ライダーエグゼイド ~マイティノベルX~』

 

『エグゼイド』真の完結編。本編、劇場版、Vシネマ、てれびくん等の付録も含め、かなり幅広く外伝が作られた本作だが、何気に唯一描かれていなかった永夢の過去がガッツリと描かれる。本編であれだけ「宝生永夢ゥ!」と真相を暴露されていたにも関わらず、彼の輪郭は最後までぼやけたままだったのだ。なぜ君は交通事故に遭ったのか。なぜ自分の家族について語らなかったのか。なぜ「命の大切さ」を必死に説いていたのか。ノベルゲームの世界で、永夢に救われたドクター達が、ただ一つの答えを追い求める。『エグゼイド』ファンは、最後の最後まで号泣すること間違いなし。

 

 

 

 

②リアレンジ

原点を小説用に再構築したパターン。続編が作りにくい平成1期の作品が多く見受けられる。実際の作品は撮影の都合上、リアルタイムでロードマップがどんどん変化していくため、本来辿り着きたかった落とし所に着地するのは奇跡に近い神業だ。だが、小説なら、道筋を組み換え、舗装することが出来る。そのリアレンジで生まれた作品群は決して「読む必要のない」ものではない。むしろ、各作品に愛がある人にこそ読んでほしい。

 

 

 

『小説 仮面ライダーアギト

 

『アギト』入門編と言っても過言ではない、綺麗に舗装された一作。あかつき号事件という物語の舞台装置が丸ごと組み替えられ、記憶を失った翔一、身体を蝕まれる涼、実直なヒーロー・氷川誠ら3人の内面と過去がより丁寧に描かれる。注目すべきポイントは、彼ら3人とヒロイン・真魚の関係が等しく密接になった点。真魚の過去に連なる道筋がハッキリとしていて、非常に纏まっている。内容の違いは微々たるもので、『アギト』がギュッと濃縮された一冊は、本編を愛好する者ほど所有しておきたいバイブルだ。

 

 

 

『小説 仮面ライダー龍騎

小説 仮面ライダー龍騎 (講談社キャラクター文庫)
 

 

井上敏樹節大爆発!な新解釈『龍騎』。ライダーバトルの舞台装置がある以上、世界はいくらでも再構築できるわけだが、今作は史上最も重くてエグい。この6年後に井上御大が描いた『RIDER TIME 仮面ライダー龍騎』でもここまでのことはしなかった。劇場版で登場したファム/霧島美穂と真司の恋愛関係がより切なく描かれたり、蓮と結衣が関係を持ったり、浅倉の過去や北岡先生とゴロちゃんの末路がとんでもなかったり、とにかくハードな作風である。原点では何気に一度も実現していない「とある結末」が描かれた点は個人的に高得点。死の臭いが充満した空気の中に、それぞれの濁りなき「生への渇望」があるからこそ、どうしようもなくこの世界に惹かれてしまうのだ。

 

 

 

『小説 仮面ライダーファイズ

 

2004年に発売された『仮面ライダー555 正伝 ―異形の花々―』を再録・加筆した作品。元々の井上節がよりドス黒くなっていて、ページをめくるたびに心をえぐられる。結花と啓太郎の下りが更に残酷に。特にいくら草加雅人が酷いことをしたからといってここまでしなくても良いんじゃない?という加筆部分は、一周回って笑ってしまった。本編で十分罰受けただろ。「残酷さの中に一筋の美しさがある」という井上敏樹氏お得意の世界観が炸裂しているので、体調・健康面共に万全の状態で臨むべし。

 

 

 

『小説 仮面ライダーブレイド

 

一応「本編から300年後」と銘打っているが、本編とは全く関係のない世界なのでリアレンジ枠とした。ファンタジックな世界に生きる見知らぬ者達は、名前や変身体で本編の誰を表しているかわかりやすく、彼らの生き様を脳裏に浮かべながら楽しむことができる。「300年後」ということで不死の彼らも登場する訳だが、300年という永い時間の中で精神に異常を来し、壊れていく英雄の独白には涙なしには向き合えない。非常に心を痛めながらも、彼の活躍を見守ってきた一視聴者として、向き合わなければという使命に駆られるような内容だった。最近末満健一氏の『TRUMP』シリーズを見た時、この小説を思い出した。

 

 

 

『小説 仮面ライダー響鬼

 

響鬼』の原案が、『変身忍者嵐』という昭和特撮作品にあるということは周知の事実だが、彼らを小説内で共演させるというドリームマッチを実現させたのが本作だ。『劇場版 仮面ライダー響鬼7人の戦鬼』は戦国時代を舞台としているが、今回は少し先の江戸時代。魔化魍と戦う鬼の一族と、血車党殲滅を目指す変身忍者嵐が邂逅し、次第に同じ目的に向けて背中合わせで戦場に赴く。読み終わった後にはどちらの映像作品も見返したくなるような、シリーズ最も真っ直ぐな時代劇風ヒーロー小説である。

 

 

 

『小説 仮面ライダー電王 東京ワールドタワーの魔犬』

 

小林靖子氏の代表作が、白倉プロデューサーの筆致で再現された一冊。イマジンや良太郎、ハナ達の愉快な掛け合いが、違和感なく脳裏に浮かぶ。一応時系列が記されているが、特に気にせず『電王』の一篇として楽しめるため、補完枠ではなくリアレンジ枠とした。改めて、『電王』という作品の唯一無二な強みを思い知る。

 

 

 

『小説 仮面ライダーキバ』 

小説 仮面ライダーキバ (講談社キャラクター文庫)
 

 

個人的にリアレンジ枠の最高傑作だと思っている。『キバ』の生臭い人間関係と、異種族間の苦悩、ムーディーな雰囲気がギュッと濃縮された完全版だ。名護さんの立ち位置を変更してありえたかもしれないひとつの可能性を示したり、序盤で消えた「この世アレルギー」をしっかり機能させたり、それぞれの恋愛模様を洗い直したりと、本編の要素を最大限活かしている。元の要素の旨みを活かし、最上の料理として仕上げることができた本作は「リアレンジのお手本」といっても過言ではない。

 

 

 

『小説 仮面ライダーディケイド 門矢士の世界~レンズの中の箱庭~』 

 

こちらもなかなかどうして魅力的な作品だ。井上敏樹氏の実娘・鐘弘亜樹氏が描く門矢士の旅は本編よりも孤独に描かれる。訪れる先はリ・イマジネーションの世界かと思いきや、「実際に放送された」ライダー達の世界(完全一致とは言い難いが)野上良太郎、五代雄介、天道総司。各世界の戦場で抱く充実感とは対照的に、自分の世界で深まっていく孤独感。戦いに逃避する彼が、自己の内面と向き合った時、その瞳に何を映すのか。何気にはじめて「鳴滝」の解釈を明記した稀有な作品でもあるため、『ディケイド』のひとつの物語として必見である。

 

 

 

 

③本編内のエピソード補完

本編内のエピソードのどこかに挟まれ、補完する役割を担う作品群。といっても、この役割を忠実に果たしているのは『W』くらいで、他は前日譚やちょっと先の後日談も含んで一冊としている。①ほど実直に続編を描くスタイルでは無い作品も含め、③のカテゴライズとした。

 

 

 

『小説 仮面ライダーカブト』 

 

小説仮面ライダーシリーズの第1弾としてラインナップされた本作は、過去に発表された小説の再録・加筆と、本編のストーリーをノベライズしたもので構成されており、シリーズの中では正直一番新鮮味の薄い作品である。しかし、再録の対象となった小説はDVDセル版の初回特典でしか手に入らないため、そちらを探すくらいなら小説版を手に入れた方が吉。加賀美はともかく、天道の内面が描写されることは滅多にないため、第一部の「閃光」は読むべし。

 

 

 

『小説 仮面ライダーW ~Zを継ぐ者~』 

 

三条陸氏の筆致で蘇る『W』の世界。その解像度の高さに震える。小説を読んでいると思ったら、『W』を視聴していた。そのくらいするすると台詞が入ってくる。内容も「ビースト」と「イエスタデイ」の間にある「32.5話」といえるエピソードで、ロストドライバーにまつわるとある補完がなされることにより、『W』本編がより楽しめる仕掛けになっている。2020年現在は『風都探偵』が連載中ということで、今もなお広がる『W』ワールドだが、いつかこの小説版も日の目を浴びて、アニメ化なり実写化なりしてくれるならそれ以上の喜びはない。『W』を語る上で外せない名作。

  

 

 

『小説 仮面ライダーオーズ』 

小説 仮面ライダーオーズ (講談社キャラクター文庫)
 

 

サブライター・毛利亘宏氏は作品の設定やテーマを汲み取る能力が高い脚本家という印象がある。その能力を活かし、第一部ではグリードの過去編を、第二部ではコメディチックなバース外伝を、第三部では火野映司のその後の物語を、色鮮やかに描き出している。『オーズ』の補完として完璧だ。グリードの血生臭い過去編も、「手を掴む」ことができるようになった映司くんの活躍も見所しかないが、正直言うと第二部の抱腹絶倒コメディに腹筋が殺される。アレ目線の話とか、何食ったら書けるんだ。

 

 

 

『小説 仮面ライダーゴースト ~未来への記憶~』 

 

先に断っておくと唯一未読です。すいません。『ゴースト』は序盤こそ楽しんでいたが、本編中盤で脱落してしまった...。と言いながら大まかなあらすじは知っているし、『スペクター』も鑑賞済なので、いずれは読もうと思っている。福田卓郎氏が本来描きたかった『ゴースト』が呪詛のように詰まっていると聞いているので、同氏の新作『セイバー』が始まる前に押さえておきたい一冊。読み終わったらこの下に追記予定。

 

 

 

『小説 仮面ライダー鎧武外伝 ~仮面ライダー斬月~ 』 

 

舞台『仮面ライダー斬月』を描き直した小説版。少々舞台の前日譚が描かれており、相互補完的に楽しめる作品である。前述の通り、毛利氏は作品の再解釈が上手いと思っているが、今作でもその能力を遺憾なく発揮。虚淵氏が本来だったら描きたかったであろう、「ダンスチームじゃない『鎧武』」が薄暗く、血生臭く描かれる。本編と地続きの作品だが、全体的な構造が「本編のリアレンジ」だと明確に伝わってくるのでこの枠とした。「変身だよ、貴虎」と紘汰に告げられた彼は、果たして変身できたのか。貴虎の勇姿を、舞台・小説セットで見届けるべし。

 

 

 

 

 

以上、全19作品のシリーズが、2012年11月から2020年6月にかけて発刊された。講談社キャラクター文庫のシリーズは、他にも「スーパー戦隊シリーズ」、「ウルトラマンシリーズ」、「プリキュアシリーズ」などが存在し、それぞれ本編を彩ってくれるサブアイテムとして、有効に機能している。子ども向けっぽく宣伝されているが、中身はかなり「当時の子どもたち」に向けて書かれたものばかり。当時一度でも仮面ライダーの世界に訪れた「子どもたち」は是非、「あなたにとってのヒーロー」が描かれた一冊を手に取ってほしい。

 

 

 

(参考)

 

kodomo.kodansha.co.jp

 

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