零れ落ちる前に。

その時々感じたことを、零れ落ちる前に。

赤い公園のツアー「0日目」で目撃したバンドの超進化と未来への希望について。

ここ数ヶ月でオンラインライブをいくつか見た。6月のMaison book girl、7月の星野源、8月のビバラオンライン、サカナクションBase Ball BearKing Gnu。いずれも現場のチケット代を考えると破格の値段で、ワンクリックで買えてしまう手軽さがあるのにも関わらず、価格以上のクオリティを提供してくれるので、なかなかに沼である。アーカイブも残るから、必ずしもリアルタイムで見る必要はないし、何度も繰り返し見られるお得感。最初はやや抵抗があったが、ライブの手法のひとつとして大いにアリだと思う。もちろん、ライブハウスにて生で聴く演奏に勝ることは無いが。

 

いくつかと言っても両手に収まる程度の購入数だが、中でも先日公開された赤い公園のオンラインライブ、「SHOKA TOUR 2020 “THE PARK” ~0日目~」は頭一つ抜けて素晴らしかった。今まさに脂が乗っている状態なんだぞ!と、1時間強の時間をたっぷり使って見せつけてくれた。ボーカリストとしての急成長が止まらない石野理子、自然体で変幻自在に音を操る津野米咲、どっしりと構えながら時にトリッキーなプレイで魅せる藤本ひかり歌川菜穂らリズム隊。4人の音楽が混ざり合うと、最高の空間が出来上がる。希望あふれる一時の時間を、期間限定の中で何度も見返し、何倍増しのボリュームで楽しんだ。いつかの「1日目」に向けて、万全の準備運動ができた「0日目」だった。

 

 

THE PARK

 

 

 

 

 

配信が始まり真っ先に映ったのは、「私」の視界だった。歩みを進めた先にあったのは立川BABEL。足繁く通ったはずなのにすっかり疎遠になってしまったライブハウスという聖地に、バーチャルであっても入場できる喜びといったらない。粋なことをしてくれる。日本全国の視聴者の視点が「私」に集約され、その足は階段を下り、その手はドリンクチケットを引き換える。薄暗い会場の正面に垂れる「赤い公園」のロゴ。その幕が上がると、そこに彼女らがいた。赤い公園のライブが始まる。

 

しっとりと悠然たる態度で歌われる「ソナチネ」。言い聞かせるように歌う〈きっときっと私たちは大丈夫〉という詞には、ライブ自粛を続けてきた彼女らと長く会えていなかった私たちの関係を、静かに繋ぎ直してくれるようなやさしさとあたたかさがこもっていた。カメラに映る映像がずっと「私」視点なのも良い。最前列の特等席から少しずつ引いていく映像は、前から後ろまですべての「私」を想定している。その気配りに嬉しくなる。

 

お互いの信頼を確かめあったところで、歌川が一気にエンジンをかけ、「Mutant」が始まる。石野が跳ねれば跳ねるほど、視界はどんどん明るくなっていく。ここからは配信ライブならではのカメラワークで、各メンバーの表情がはっきり見える楽しさがあった。私の自宅もライブハウスに早変わり。いつも元気を貰っている曲が、いつも以上に華やかになる。これだからライブは最高だ。アーカイブで何度も巻き戻せるのは配信ライブの強みなので、その利点を活用して石野の「はぁ」を何度も見た。元アイドルだけあって、振り付け感の強いノリや、曲中の遊び心が面白い!

 

ギアがかかったら「絶対」縛りの2曲。本来ならスパッと90秒で切れる「絶対的な関係」が、「絶対零度」の轟音イントロへバトンを繋ぐ。ダークな世界に引きずり込まれたと思ったら、「びー!びーびーびーびーびー!」という掛け声を合図に、可愛くポップな「Beautiful」が始まった。真逆を突くような展開だ。「赤い公園」という名の通り、多種多様な遊具で遊び回っているかのような錯覚に陥る。

 

お次の世界は、「KILT OF MANTRA」「交信」「Yo-Ho」と3曲続けてピアノコーナー。この"世界紀行"感にワクワクする。色の異なる3曲だが、いずれも世の中を明るく照らさんとするエネルギーが満ち溢れていた。「Yo-Ho」初のバンドアレンジは軽快なシティポップに仕上がり、一生踊っていたくなった。

 

彼女らのライブが好きな理由のひとつに、「ノリを強要しない」ところがある。激しい曲も、ゆったりとした曲も、どこかゆとりがあって、押し付けがましくない。それぞれが自由に、思いのままに揺れることができる。だから安心して楽しめる。ここまでの8曲を通して、久しく触れていなかったその理由を肌で感じ、自室という名のライブハウスで気が向くままに楽しんだ。

 

バスドラが何度か打たれ、鋭く鳴ったギターを合図に皆が動き出す「消えない」、アップテンポなナンバーに踊らずにはいられない「ジャンキー」とキラーチューンが続き、まだ行けるか?というところで再び座らされての「最後の花」。この起伏こそが赤い公園だ。歌はもちろん、フロントマンとしてのエンターテイメント性も抜群な石野理子にとにかく惹かれ続けた。「ジャンキー」落ちサビの手をくわっと開いたポーズが好きすぎて。ロックバンドのボーカリストとしての腕を磨きながらも、アイドルとしてのアイコン的魅力も損なっていない、そんな2つの武器を持ち合わせた彼女の前にしたら、全面降伏するしかない。

 

そしてバンド史上最もピュアな片思いソング、「夜の公園」。もうとにかくうっとりと浸った。『THE PARK』は個人的に2020年の作品史上トップクラスの名盤と認めているのだが、中でもこの曲の美しさには心を奪われっぱなしだ。昨年のツアーで披露された時は未発表曲だったため詞にまで耳が行き届かなかったが、詞を脳に馴染ませてからライブで聴くと、破壊力は絶大だ。石野が歌うからこそ、その説得力は何倍にも増す。ベタ褒めがすぎるが、この曲はマジで名曲なので老若男女問わず聴いてほしい・・・。

 

続く「chiffon girl」には、ODD Foot WorksのPecoriが客席から乱入!ザ・オタクファッションを身にまとったヘンテコな姿でステージに飛び乗ると、石野との極上の絡みで魅せる。見事なセッションで原曲の何倍にもボルテージが上がり、最高級の一品に仕上がった。それにしても、石野が指差した先にいたPecoriが〈chiffon girl 会いに来たぜ〉と文字通り姿を見せた時はカッコ良すぎて鳥肌が立った。彼女も目に見えて興奮しており、〈散らばりバラまく〉の箇所で連続パンチを繰り出したシーンは何度も見返した。ものっすごい楽しそうなんだもの。いつか会場で聴ける日が来たらなぁ。

 

 

 

 「新曲やります!」とだけ宣言して初公開された「オレンジ」は、爽やかな正統派ロックチューン。〈あの日誓いあった約束はもう忘れても構わない〉という真っ直ぐな叫びが、終盤にかけてどんどん上がっていき、ダメ押しの転調で更に輝く。少女の真っ直ぐな視線が、後悔を乗せながらも、未来に向かって突き刺さる。別れの曲でありながらも、その振り切った様子には爽快感があった。

 

最終盤は「凛々爛々」、そして「yumeutsutsu」! 「りんりんらんらーん!」と高らかに雄叫びを上げ、バンド全体で指針を未来に向けるかのように、ストレートな思いを音に乗せた。1番と2番の合間に挟まれるライブアレンジは何度聴いても堪らない。「ギター津野米咲!」「ドラムス歌川菜穂!」「ベース藤本ひかり!」と呼ばれるたびに、それぞれがテンションの高いソロを披露し、石野も含めた4人で激しく絡み合う。盛り上がるにつれ、笑顔も伝染する。特に歌川の心底楽しそうな表情といったら。あの瞬間の楽しさは、喜びは、他の何にも代えがたい。絡み合った後の2番頭の静寂と、その中でひとり空間を司る石野の歌も、"今の赤い公園"を最も象徴する瞬間だと思う。

 

幸福をたっぷりと吸い込んだ後は、「最後の最後まで帰さないぞ!」と言わんばかりの勢いでトドメの「yumeutsutsu」。長い髪をぐわんぐわんと振り回す石野を中心に、大きなうねりとなって、最高の瞬間を私たちの体に刻み込む。

 

〈そこどけGUYS 私は行くよ 構わず行くよどこまでも〉

〈轟け愛 予感を信じて五感を劈く〉

〈未だに醒めない夢なら 本当にするしかないだろ〉

〈やりきれない夜を越えて 何が何でもまた会おう〉 

 

この曲の中には、非現実的に感じてしまうくらいにたくさんの希望が詰まっている。それなのに、嘘っぽくない強い説得力を感じるのは、どこまでもピュアな4人が音を鳴らし、どこまでもピュアな石野理子が中心で歌っているからなんだと思う。彼女が〈行こうぜ〉と高らかに叫んだとき、〈うつくしい圧巻の近未来〉も〈絶景の新世界〉も、あなたについていけば絶対に見られるんだという確信を持った。先の見えないコロナ禍の今も、きっと抜け出せる。そう信じさせてくれるくらいのパワーがあった。

 

「ありがとうございました!」と一言添え、MCもなく一気に駆け抜けた1時間。"今の赤い公園"を120%詰め込んだ最強すぎるオンラインライブだった。思い返せば、前任の佐藤千明が最後のライブを行った「熱唱祭り」から約3年。ボーカル不在の3人時代、石野が加入して間もない頃の1+3人時代、ライブやレコーディングを通して纏まってきた今の4人時代。長い年月を経て、バンドは完全復活を果たした。復活どころか、超進化が止まらない。今最も脂が乗っている彼女らの旅に、どこまでもついていきたい。

 

  

2020/8/29(土) SHOKA TOUR 2020 “THE PARK” ~0日目~

@立川BABEL

1. ソナチネ
2. Mutant
3. 絶対的な関係
4. 絶対零度
5. Beautiful
6. KILT OF MANTRA
7. 交信
8. Yo-Ho
9. 消えない
10. ジャンキー
11. 最後の花
12. 夜の公園
13. chiffon girl feat. Pecori
14. オレンジ(新曲)
15. 凛々爛々
16. yumeutsutsu

 

 


赤い公園 「yumeutsutsu」Music Video

 

 


赤い公園 「THE PARK」メイキング

 

 

P.S.

 

同日に販売が開始されたツアーグッズを注文したら早速届きました〜。理子ちゃんプロデュースのyumeutsutsuトートとジャンキータンブラー。かわいい。今回はライブ用グッズ以外を選びましたが、タオルとかTシャツも欲しくなっちゃいますね。ここには載せませんが歌川先生のポストカードも特典で付いてきました。多才だな~。

 

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