零れ落ちる前に。

その時々感じたことを、零れ落ちる前に。

『MIU404』最終回雑感。

『MIU404』が最終回を迎え、色々と思うことがあったので、体裁を特に整えずに速記録的に書こうと思う。

 

TBS系 金曜ドラマ MIU404 オリジナル・サウンドトラック

 

 

 

 

これまでの10話と比べると、非常に異質な1話だった。「法の下に裁く」ことを徹底してきた志摩と伊吹が、その決まりをついに破る。何故なら、久住は法を破らないと勝てない相手だったから。そんなヤツに、大切な仲間を傷つけられたから。生死を彷徨う陣馬さんを軸に、2人は正しくない道へ足を踏み入れようとしていた。

 

素性を全く漏らさずとことん逃亡する久住は、ネットの善意や警察の正義をまるっと利用し、フェイクニュースという現代の爆弾を投げてまで闇に紛れる、悪質すぎる敵だ。どれだけ迫ってもNot Found。唯一勝ち筋となりそうなのは成川の証言から作成した似顔絵だったが、またしても法を前にしたら決め手にならない。そして、ついに志摩は「法を破る」というスイッチを押した(厳密にはギリギリセーフだけど)。それも、たったひとりで。これまで相棒と走ってきたから開けてきた道を、信じることができなかった。九重の前で彼は「伊吹には正義でいてほしい」と本心を表していたので、「伊吹を信じたせいで」というのは彼は自分で違うとわかっている。だが、後者の部分をわざわざ口に出してしまったせいで、伊吹にその部分だけが伝わってしまった。ボタンが徹底的に掛け違え、志摩と伊吹の距離は広がっていく。

 

一方の伊吹も、志摩とは別の意味で危なっかしくなっていった。「赦すことができなかった」ガマさんと同じような目をし、久住に先に出会ってしまったら法をすかさず破ってまで復讐を遂げてしまいそうな危うさが漂っていた。どちらが先に出会ってしまっても久住を正当に裁けないのではないか。これでは、今作でクロスオーバーした『アンナチュラル』の中堂さんが2人いるようなものだ。ミコトのように、最後まで正しく導いてくれる相棒がいない。その結果を示すかのように、久住の居場所を先に特定した伊吹は「最悪の事態」を起こしてしまった。

 

薬漬けにされかけた伊吹が目を覚ましたとき、志摩は頭から血を流していた。引き金を引かれてしまっていた。相棒を失ってしまった。そして久住の煽りと湧き上がる衝動に任せて、自らの手で断罪してしまった。法の下に裁けず、一線を超えてガマさんと同じ殺人者となってしまった。そのまま「2019年10月16日 00:00:00」という止まった数字は無情にも動き出す。オリンピックが予定通りに開催され、日本全土が拍手喝采に湧いた明るい「現在」。だがそこに志摩はいない。「法の下に裁く」ことができた伊吹はいない。4機捜として働く最高の相棒はどこにもいない。

 

 

 

「何かのスイッチで進む道を間違える。その時が来るまで、誰にもわからない。だけどさ、どうにかして止められるなら、止めたいよな。最悪の事態になる前に」

 

 

志摩の独白を受け、時計は巻き戻った。「最悪の事態」という夢から醒めた彼らは、再び立ち上がり、今度はちゃんと2人で久住を追い詰める。形勢逆転後は徹底的に泥臭く、自らの脚で久住を追い詰め、未然に防ぐことができた。バッドエンドから一転してハッピーエンド。かなり独特な構成だった。

 

間に合うか、間に合わないか。良い方向に転ぶか、悪い方向に転ぶか。『MIU404』はこれまで幾度となく「人間の分岐点」を描いてきた。善き行いは必ずしも善に転ぶことはなく場合によっては悪に加担してしまうし、逆にある人間の悪事が巡り巡って誰かを救うこともある。本人が祈りを込めて起こした行動が、その目的通りに進むとは限らない。複雑すぎて誰にもわからないからこそ、正しくスイッチを押し「間に合わせる」ことは死ぬほど難しいのだ。

 

だけど、どうにかして止められるなら。最悪の事態を防げるなら。誰にも操れない「人間の分岐点」のシビアさを丁寧になぞらえ、その上で「フィクションの力」によって時間を操り「間に合った」方の物語を描く。あえて「最悪の事態」を一度描いてからその祈りを通じさせることによって、『MIU404』のテーマを総括し、エンタメに昇華する。なんとも豪腕なやり口だ。

 

構成の独特さ、夢オチの衝撃に最初は面食らったまま見終わってしまった。しかし、こう纏めてみると、「志摩が死に、伊吹も(社会的に)死んだオリンピック下の現在」と「志摩と伊吹が生きているコロナ禍の現在」という2つの対となる可能性を綺麗に提示し、後者を現実に寄せたことで、「彼らもここに生きている」という希望と、ひとつスイッチを押し間違えたら...というゾッとする絶望を交互に突きつけた、この番組らしい真に迫る最終回だったように思う。ギリギリの綱渡りだったが、結果として相棒と共に戦い、法の下で裁くというヒロイズムも達成できたことだし。

 

しかし結末を知るまでは本当に心臓の動悸が収まらなかった。最後の最後まで「本当に2人とも生きてんのか......?」と疑い続けてしまっていたし、ここまで心臓に悪い最終回もなかなかない。「続きは劇場版で!」とかは無いと星野源が断言していたからギリギリ信じてたけど、撃たれた志摩さん見た時はもう何を信じていいかわからんかったわ。ギリギリ間に合ってよかった...。陣馬さんグッジョブ...。

 

 

そして、もうひとつ最終回が異質だったと思う理由は、やはり菅田将暉演じる久住の存在感だと思う。4機捜の活躍の印象を丸ごと塗り潰してしまうくらいの、強烈な犯人像。最後までバックボーンがわからず、飄々とした態度で人を振り回しつづける。志摩、伊吹両人に「俺と組まへん?」と快活に持ちかける時の空っぽ感とかスマホの連絡先に並ぶ無機質な肩書の羅列とか、誰に対してもヘラッヘラとした態度を取るところとか。極めつけは、どれだけ追い詰められてもまったく焦らず素を見せないところ。全部が全部不気味すぎる。桔梗さん、陣馬さん、九ちゃん、志摩、伊吹といった芯の通った人間たちの熱い正義観を見てきたからこそ、対照的に彼の恐ろしさが際立つ。最終的にはその軽薄さが仇となり、皮肉な結末を迎えるのだが。ガマさんの件を乗り越え、「一生許さないから殺してやんねえ」と告げた伊吹のカッコ良さたるや。

 

(訂正・追記)

見返したら、「俺と組まへん?」の久住は2人の悪夢の中での話だった。冷静に思い直してみると、こういう「典型的な悪役」の部分を彼は持っていない。むしろ、あそこまで執拗に個人攻撃をしないのが彼の人物像だった。だからこそ空虚感が際立つ。

 

しかし、『アンナチュラル』の高瀬以上に過去も現在も暴かれない存在だった。「俺はお前たちの物語にはならない」という台詞の強烈さといったらない。被害者側を描いてきた『アンナチュラル』と対照的に、加害者側を毎話描き、犯罪を犯した理由に同情する回はたくさんあった。しかし最後の最後に、「同情なんかさせない」という強い意志の下、クズミというNot Foundな人物を描くという自己批判的な姿勢を見せた。

 

Twitterで感想をチラッと見た時、「クズミは東日本大震災の被災者なのではないか」「すべてを流され、自分を失ったのではないか」というツイートを見かけたが、伊吹が示唆した内容に志摩が反論したように、これは嘘だと思う。相手に合わせてでっち上げたバックボーンをいけしゃあしゃあと語ってきたように、初対面の伊吹に合わせて「暗い自分」を匂わせたのではなかろうか。言葉を選ばずに言うと、「震災エピソード」なんて一番同情を引くのにうってつけの内容だ。「すべて泥に流されてしまったのだから、悪事に手を染めてもしょうがない」といったような「物語」としていくらでも組み込むことができる。「物語」になることを嫌う彼が、心の奥底にある自分を安易に見せびらかすとはどうしても思えない。ていうか「お前たちの物語にはならない」と言いながら、他人に対しては「物語」を好きなように騙る、本当悪質なヤツ〜〜!!

 

高瀬は「バックボーンなんか関係なくお前は犯罪者だ」と叩きつけることで勝利することができた。一方クズミは、「バックボーンなんか関係ない」というところを利用し、心を閉ざし、捕まった今でも蝶のように逃げ続ける。伊吹の「真っ直ぐな道に戻す」も通じない。クズはクズのままあり続ける。「最悪の事態」は防げたが、根本的なところは解決していないように思う。ハッピーエンドになっても靄がかかったままなのはそのためだ。

 

ただ、久住を更生させるまで描いてほしかったからモヤモヤしているわけではない。話の結末に釈然としないわけでもない。久住の続きや過去編もハッキリいって必要ない。何も見えないからこそ良いのだ。また、4機捜の仕事は彼の確保までだし、ここから先は別の物語に預けるべきだ。エンタメとしては腑に落ちる。

 

単純に、久住という犯人像を今までに見たことがなかったから、驚き、モヤモヤし、実際に存在するとしたらどう扱うべきなのかと悩んでいるのである。社会のルールに則るならば、一度罪を犯した人間は何年かかけて罪を精算し、許されることで社会復帰する必要がある。背景が見えない、物語にはならない、クズはクズのままという人間を、最終的にどうすれば正すことができるのか?この問いに自分の中で解が出せない。彼のような「生きているのに死んでる」人間を救うことができる者は、果たしているのだろうか。彼のような人間の救済こそ、この社会が解決すべき課題なのではなかろうか。

 

捕まってもなお食えない犯人として描かれた久住。彼の閉ざされた過去とその先の未来は何も見えない。ドラマとしては正解だが、現実問題としてどうなのか。社会問題をエンタメに昇華するのがお得意な野木さんが最後に投下した爆弾は、強烈な威力をもって私の心を荒らしていった。そんな衝撃的な最終回だった。

 

 

コロナとオリンピックの件も、久住の落とし所も、本来のプロットだったらどうなったのかわからない。だが、このような状況下に分岐したからこそ、こんなにも刺激的な結末を見届けることができたのだと思う。全11話、毎週楽しすぎる金曜日でした。志摩と伊吹が「ゼロ」から走り始めた先で、また会えることを信じてます。ロスが止まらず眠れませんが、そろそろこの辺で。

 

あ、続きを描くならRECさんのスピンオフ出してください!!志摩と伊吹が大変なことになっている頃彼は何をしていたのか!ナウチューバーとしての信頼を失った彼はどのような道を切り拓いていくのか!特派員RECの明日はどっちだ!!!!!(けすけさんが売れてめっちゃうれしい)

 

 


米津玄師 MV「感電」