零れ落ちる前に。

その時々感じたことを、零れ落ちる前に。

積んで、崩して。(2020年9月)

季節はすっかり秋ですね。うだるような暑さもなく、震えるような肌寒さもない、「ちょうどいい」季節。「好き」、というよりは、「助かる」季節です。気温に精神が左右されやすい私にとって、平穏を保ちつづける秋は生きる上で非常に有り難い。

 

そんな季節になる少し手前、青空が爽やかさみしい頃の記録です。

 

 

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目次説明

①「積んで、」:今月分までの積ん読。先月からの繰越分も含む。

②「崩して。」:先月までに積んで、今月崩した(読んだ)本。

③「積んで、崩して。」:今月積んで、今月崩した本。

 

このような分別をし、①については軽く紹介、②、③については感想を放流していきます。購入時期とか購入場所はその時の気分で。今回からは図書館で借りた本も含みますが、基本的に分類は③です。

 

なお、紹介時に書いた西暦は、単行本の初版発行年で統一してあるはずです。よって、Amazonの記載とズレる場合もありますので悪しからず。

 

あとこの前からブクログを利用し始めました。読んだ本、積ん読本はもちろん、読みたい本の管理も楽。よかったら本棚覗いてみてね。

 

 

booklog.jp

  

 

 

①積んで、

計:16冊 

 

 

・小原雅博『東大白熱ゼミ 国際政治の授業』(2019年)

 

東大白熱ゼミ 国際政治の授業

東大白熱ゼミ 国際政治の授業

 

 

友人がインスタのストーリーで絶賛していたのを見て購入。東大法学部の教授と学生らがゼミ形式で議論を重ねながら、国際政治への理解を深めていくという内容。一見堅そうだが非常に読みやすい。議論の出発点を「政治とは何か」という基本から始め、「いまさら」や「わかったつもり」をプチプチと潰してくれる。購入時、パラパラとめくった時に目に入った「模擬交渉:米朝会談を『実際に』やってみる」という章では、学生達が金正恩とトランプに扮して議論していた。そこに小原先生がちょいちょい口を挟むというシュールな図。面白そうなのではやく辿り着きたい。

 

 

 

・宇田智子『本屋になりたい ――この島の本を売る』(2015年)

 

 

Kindleを久しく開いていなかったため、存在を忘れていた本が数冊あった。購入履歴を辿ると、どうやら筑摩書房の創業80周年フェアで154円で買ったらしい。セール品は購入時に最も盛り上がる...というのはテンプレだが、せっかく手にしたのだからぼちぼち読まねばなるまい。この書を手に取った理由は完全に「ジャケ買い」だな......。

 

以下も同様にセール品である。

 

 

 

・渡辺尚志『百姓たちの江戸時代』(2009年)

 

百姓たちの江戸時代 (ちくまプリマー新書)

百姓たちの江戸時代 (ちくまプリマー新書)

 

 

大学時代は日本史を専攻し、なかでも近世の村について研究していたので、渡辺尚志氏の先行研究を読む機会は多々あった。その名残なのか、今でも本屋の日本史コーナーに立ち寄ると、手に取ってみたくなる。当方新書や論文を読むのがクソ苦手だったので読み切れるかわからないが......。読みやすそうな新書なのでいけるさきっと。

 

 

 

・坂爪真吾『性風俗のいびつな現場』(2016年)

 

性風俗のいびつな現場 (ちくま新書)

性風俗のいびつな現場 (ちくま新書)

 

 

こちらはタイトル買いかな。現代の風俗に関する多くの事例が記されているっぽい。中身は非常に真面目な論文で、風俗の世界から社会問題を炙り出し、解決策を提案しようという試みがなされているようだ。

 

 

 

 

 ・森山至貴『LGBTを読みとく ──クィアスタディーズ入門』(2017年)

 

LGBTの基礎知識を身につけたいという動機で、先月も神谷悠一氏の著作を読んだ。こちらも基礎の基礎だと紹介されているので、知識の答え合わせ的な意味でも読んでおきたい。某区議のほしいものリストにもぶちこみたいな。

 

 

  

以下積み残し枠。

最果タヒ『「好き」の因数分解』(2020年)

・橋本陽介『「文」とは何か 愉しい日本語文法のはなし』(2020年)

・福永勇二『イラスト図解式 この一冊で全部わかるネットワークの基本』(2016年)

・『現代思想 2020年3月臨時増刊号 総特集◎フェミニズムの現在 (現代思想3月臨時増刊号)』(2020年)

上野千鶴子『思想をかたちにする 上野千鶴子対談集』(2015年)

西加奈子サラバ! (上)』(2017年)

松浦理英子『奇貨』(2015年)

・辻村七子『宝石商リチャード氏の謎鑑定』(2015年)

宇多丸高橋芳朗、DJ YANATAKE、渡辺志保『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(2018年)

・田中道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(2019年)

三上延ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~』(2018年)

 

 

 

②崩して。

計:1冊 

 

・宇野維正、田中宗一郎『2010s』(2020年)

 

2010s

2010s

 

 

ラップミュージック、SpotifyMCU、『ゲーム・オブ・スローンズ』など、2010年代のポップ・カルチャーをあらゆる切り口から総括していく宇野維正、田中宗一郎両氏による対談本。 

 

私は元から海外の音楽や映画にあまり馴染みがなく、日本の文化ばかりに好んで触れてきた。その結果、Spotifyが日本にやってきたのは本国のブームから8年も遅れていたという事実に一切気付いていなかった。そのくせ「サブスク!」と無邪気にはしゃぎ、「新時代の到来だ」と胸を踊らせていた。穴があったら入りたい。カルチャーの話を掘り下げていくと、必ず政治的、社会的な出来事に展開していくため、とにかく雑多な内容で2010年代を振り返っている。

 

日本という国が世界から遅れを取っている、その事実に鈍感であることは、Twitterやインスタを通して世界を見渡せるようになった今の時代許されることではない。ポップ・カルチャーの知識をつけることは、Black Lives matter等今世界で起こっている問題を知ることにも繋がる。もっとアンテナを広く持ち、知識をつけるたびに何度もこの本へと帰ってこようと思う。

 

 

 

③積んで、崩して。

計:4冊 

 

・スティーヴン・ウィット 関美和訳『誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち』(2016年)

 

 

『2010s』にて引用され、タイトルに惹かれたので近くの図書館で借り、一気に読み切った。

 

mp3がいかにして誕生し、海賊版がいかにして流通したか。まるでフィクションのように描かれる数々の攻防は、紛うことなき現実だ。既得権益者により落ちこぼれの烙印を押されたmp3が、海賊版によって隆盛を極めることになったのは、単なる偶然ではない。インターネット黎明期に大海原へと流し続けた組織・「シーン」が存在したのだ。ネット上のみで繋がり、顔も知らない者同士でチームを組み、誰がいち早く新譜をリークできるかを競う。そうやってタダになった音楽を、世界中の無自覚な一般人が拾っていたのである。

 

CDが売れた時代にシーンの人間たちを検挙しようと動いた音楽業界、「シーン」の一員として動いたインターネットの住人達、mp3の開発に携わった研究者達...。それぞれの視点が複雑に絡み合い、音楽がタダになった時代の歴史が紐解かれていく。同時代に少年期を過ごした私にとって、非常に身近に感じられる刺激的な内容だった。iPod Shuffleを片手に通学していた日々の裏で、こんなことが起こっていたなんて想像もつかなかった。

 

CDが敗北し、ストリーミングサービスが主流の時代がやってきたのも、この激動の時代を経た結果なのである。

 

 

 

・宇佐美りん『推し、燃ゆ』(2020年)

 

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

 

昨今どこでも聞くようになった「推し」という言葉。この言葉に対し、親しみとともにどこか呪いめいた雰囲気を感じるのは私だけだろうか。

 

「推しが燃えた。」という一文で始まる本書は、とある男性アイドルを人生を賭して推した少女が、緩やかに破滅していく様を描く。家族関係も学業もバイトもままならないが、推しに対しては人一倍熱量を捧ぐ少女は、自らのブログを通して推しを解釈し続ける。

 

相手と話して距離が近づくこともない、あたしが何かをすることで関係性が壊れることもない、一定のへだたりのある場所で誰かの存在を感じ続けられることが、安らぎを与えてくれるということがあるように思う。何より、推しを推すとき、あたしというすべてを懸けてのめり込むとき、一方的ではあるけれどあたしはいつになく満ち足りている。

・宇佐美りん『推し、燃ゆ』(河出書房、2020年)P62

 

一度でも誰かを推したことがある者はこの感覚に共感するのではないだろうか。私もそのひとりで、彼女の独白のひとつひとつに痛いほど共感し、彼女の行く先に自分を重ねてしまいそうになった。感情の言語化がとにかく巧みな筆者の術中にはまり、ひとつひとつの言葉に胸を抉られる。

 

物語のクライマックスで推しに大きな動きがあり、少女は感情を爆発させる。その際、怒りに任せて投げた物があまりにもリアルで、生々しさに胸を締め付けられた。推しの人生がどうなろうと、私は私の人生を生きていくしかないのだ。その事実を知っているか否かが分岐点なのである。

 

 

web.kawade.co.jp

試し読みをして、買うしかないと本屋に走ったのです

 

 

 

松浦弥太郎『おとなのまんなか 新しいことはまだまだ、できる。』(2020年)

 

 

大切な友人の愛読書をお借りした。元『暮しの手帖』編集長で、現在はcookpadのサービス「くらしのきほん」編集長をされている松浦弥太郎さんによる、「おとな」の指南書。

 

おとなの友達つくり、おとなの働き方、おとなの文章術、おとなの趣味...といったように、10のテーマでおとなが心がけるべきことは何か?を説く。説く、といっても説教臭くなく、自己啓発本のような胡散臭さもない。とにかくていねいに、わかりやすい言葉で、松浦氏なりの生き方、在り方を教えてくれる。

 

松浦氏の生き方は、ナマケモノの私にとってはかなりストイックで厳しく、自分とははるかにかけ離れたもののように感じた。しかし、数あるうちのひとつでも吸収できれば、憧れている「ていねいなくらし」に少しでも近づけるのではないか。そんな甘いもんじゃないだろうけど、このインプットは大事に蓄えておき、使えるときに使っていきたい。

 

 

 

・アダム・オルター 著、上原裕美子訳『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』(2019年)

 

僕らはそれに抵抗できない

僕らはそれに抵抗できない

 

 

SNS依存がヤバいと危惧した1ヶ月前。それから少し経って、その時の関心とぴったり合致する本書を見つけ、縋るように読んだ。

 

スマホ依存に代表される、何らかの悪癖を常習的に行う行為は「行動嗜癖」と呼ばれる。昔から存在する概念ではあったが、近年急激にメジャーな現象となった。この依存は何もスマホ依存だけではなく、目標設定した運動やダイエットへの依存、配信サービスへの依存、「いいね!」依存、課金依存、はたまた仕事、買い物、恋愛への依存など、様々な例が該当する。ゲーム好きな若者に限らず、老若男女問わず関わりのある症状なのである。

 

そしてこの依存に誰もがハマる理由は、開発者側が意図的に「デザイン」しているからである。かのジョブズが、自分の子供らにはiPadを触らせなかったことからわかるように、テクノロジーへの依存はつくられていたのだ。

 

本書では、行動嗜癖を意図的に促すようデザインされた様々な製品、サービスを、具体的な事例を提示し、依存のメカニズムを紐解いていく。依存症の怖さを思い知らせた上で、解決策を提示する。曰く、テクノロジーを捨てるのではなく、テクノロジーがもたらす依存を理解し、自ら依存しないデザインをすることが大事だという。「物は使いよう」と纏めれば簡単そうだが、なかなか難しい。本書で提案された解決策を意識的に導入し、依存症の克服を図りたいと思った。時間はかかるだろうが、やってみる価値はある。

 

ただ、ひとつだけ違和感をもったのは、本書に登場した「依存症ビジネス」の具体例が、少し古いのではないかということである。それは裏を返せば、10年程度前の話でさえ大昔に感じるくらい、テクノロジーの進化は爆速だという事実を示している。秒単位でデザインされる「依存症ビジネス」の数々に対して、人生を食われることなく付き合っていくためにも、やはり本書を基礎として取り組んでいくしかない。

 

 

 

〈あとがき〉 

 

9月上旬はちょっと本屋へ寄りすぎてしまいました。散財気味。そのくせ下旬は読書から遠ざかってしまうなど、「読書の秋」を達成しきれないモヤモヤ感。安定した日々を送りたいですね。せめて通勤時間くらいは、スマホをリュックの奥底に閉じ込めて、紙の本と向き合いたい。そんな10月を意識してみます。来月こそレッツ積ん読崩し。

 

 

 

【2020年8月】

 

exloyks.hatenablog.com