ある夏、ポルノグラフィティのすべてを知るフォロワーに、「ファンから見てポルノってどんなバンドなの?」と何気なく零したところ、ハッピーアワーの居酒屋で1時間弱の講義を受けることに。それがもう面白すぎて。「スロウ・ザ・コイン」「マイモデル」「クラウド」の「テクノロジー三部作」を皮切りに、シニカルで遠回しで屈折した晴一詞の味わい方について指南され、続いて対照的な昭仁詞の衒いの無さについて、「キング&クイーン」「ROLL」「Sheep 〜song of teenage love soldier〜」を例に説明を受けた。その後も晴一詞と昭仁詞の対比を主軸に、様々な角度から解説してもらったことで、たった1時間でポルノグラフィティへの理解が深まっていきました。このオタク、説明が上手すぎる。
「もっと教えてくださいよ」と言うと、なんとびっくり、今日まで4か月間、ほぼ1日1曲のペースで楽曲解説をしてもらっています。狂気。受講料を払う代わりに、4ヶ月間の成果として、解説いただいた範囲で特に響いたポルノグラフィティ楽曲を報告させていただきます。形式は20周年公式キャンペーンとして2019年夏に開催された「#ポルノベストナイン」をお借りし、数百曲から9曲は選び切れなかったので、晴一作詞編、昭仁作詞編の2回に分けて紹介します。
#ポルノベストナイン~新藤晴一作詞部門~

①パレット
作詞:新藤晴一、作曲: ak.homma、編曲:ak.homma, ポルノグラフィティ
3rdアルバム『雲をも摑む民』、ベストアルバム『PORNO GRAFFITTI BEST BLUE'S』収録
“月は決して泣いていないし 鳥は唄を忘れてはいない
変わらずそこにあるものを歪めて見るのは失礼だ“
ーパレット
フォロワー講義に加え、生湯葉シホさんの「美しい歌詞10選」からポルノグラフィティに入門したため、かれらのポルノグラフィティ観から影響を強く受けている自覚がありまして...... お二人が外せない一曲として語る「パレット」は、私も外せませんでした。噛めば噛むほど本質の味がする。
恋に破れて失意の“君“をあの手この手で励ますうちに、だんだんと晴一さん自身の作詞観が滲み出す。生湯葉さんが引用されている箇所もだが、作詞家という職業でありながら、自然を人間の目線で解釈することを“失礼“だと言い切ってしまうところが凄い。しかし、表現の愚かさを自覚して筆を執るからこそ、世界の隙間を突くような未知の表現が次々と生み出されるのだろう。そして、散々表現の限界を説いた後に、意味を逸脱したハミングが続く。これほど美しい帰結は他にない。
②オレ、天使
2ndアルバム『foo?』、ベストアルバム『PORNO GRAFFITTI BEST BLUE'S』収録
“オレは天使? オレは詐欺師?
さあ、どっちだ?“
物心ついた頃にはポルノグラフィティは2人組だったので、シラタマ(Tama)さんの存在は本講義で初めて知ったのですが、作曲センス凄すぎませんか。ベストナイン圏外の曲だと「敵はどこだ?」「月飼い」「ラック」「Anotherday for ”74ers”」辺りが好き。どれもベースが渋くてカッコいい。Tamaさんが残っていたら、ポルノグラフィティは今とは全然違う方向性に進化していたのだろう。
ハイカロリーな楽曲に対する晴一詞もキレッキレ。下界をパトロールするやさぐれ天使が、愛を信じる人間の愚かさを吐き捨てるように語る。"愛という名の偶像崇拝主義を叩き潰す"......って強烈すぎんだろ。愛なんて嘘っぱちだ、人は本質的に孤独なのだから他人を求めんな、と説いて回るも人間たちは従わない。そんな失敗を続けるうちに、自問自答し始める天使も結局輪の中にいて...という構造が綺麗だし、最初と最後の台詞パートも完璧で、まったく隙がないぜ......。
音源はもちろんのこと、ライブ版の昭仁さんがカッコ良すぎて毎度頭抱えてます。
きれ~いご~とじゃあ......ないんだよね世の中ァ!
③暁
作詞:新藤晴一、作曲:岡野昭仁, tasuku、編曲:tasuku, PORNOGRAFFITTI
12ndアルバム『暁』収録
“あゝ それは予告 それは暗示
ああ暁
全てを語らず試されている“
ー暁
「THE DAY」以降の楽曲だとダントツで好きです。ポルノグラフィティのパブリックイメージは「岡野昭仁さんの超パワフルなボーカル」が多くを担っていると思いますが、想像を凌駕するパワーに圧倒された一曲でした。今のポルノの代表曲になってほしいのですが、アルバムリード曲でタイアップも特になく、あまり広く届いていなさそう。まずは↑の動画を見てください。のっけから凄すぎるので。
歌詞については......映像はなんとなく浮かぶけど意味はよくわからん!このアルバムの晴一詞、どれも素人には解読が難しい。作詞の練度が上がっているということか。「THE REVO」や「解放区」とセットで読むのがよさそうか...?と思っていますがどちらも難しいのでまだわからん。修行します。
④IN THE DARK
作詞:新藤晴一、作曲: 新藤晴一、編曲:ak.homma、Porno Graffitti
8thアルバム『∠TRIGGER』収録
“悪いもんでも食ったような顔をしてるな暗闇
つい光を求めてしまう心が不味いのだろう“
ーIN THE DARK
不安、絶望、諦念、希死念慮... ネガティブな感情を具現化した「暗闇」の胃液に溶かされ続ける“僕“の歌。シチュエーションがまず凄いし、暗い気持ちをこんな寓話的に描けるんや...と驚かされました。絵本になりそうなストーリー。
晴一さんは希望ばかり歌うヒットチャートを揶揄しがちですが、この曲もその一つだと思う。明るくて無邪気な励ましを、“空の井戸からは水が汲めない“と突き放すところとかお洒落すぎて。それでも心は闇に堕ち切れず、光を欲してしまう...という機微を「暗闇の食事」で表現するのもすごいなと。淡々とした曲調も世界観にマッチしていて、大好きな一曲です。
⑤何度も
作詞:新藤晴一、作曲:新藤晴一、編曲:ak.homma, Porno Graffitti
5thアルバム『THUMPχ』収録
“目を開けたら君が居るまで何度も
目を閉じよう
じゅう数えるのはだぁれ?“
ー何度も
描写の美しさ部門だと頭ひとつ抜けた曲。冒頭の比喩からして晴一節全開だし("楽しげな話しが尽きたように"ってすごい)、猫や公園の遊具など、人でないものたちの配置が上手すぎる。そして何といっても算数のくだり。一般論を装って語り出した「好き嫌いの足し引き」は、実は"僕"と"君"の話で、何回数えても二人の関係がどこで躓いたかわからないと嘆き出す。畳みかけるように明かされる"君"の不在と、残酷な時間の不可逆性が襲い掛かってくるクライマックスには、胸がギュッと締め付けられます(メロディの盛り上がり方も秀逸!)。晴一節が炸裂した極上の一曲。
余談ですが、私は鉄棒で世界を簡単にひっくり返せなかった側の人間なので、これだから運動できる奴は......となった。歌詞世界にちゃんと浸りたいので、今からタイムスリップして鉄棒練習してきます。帰ってこれる気はしないが......(思い出される居残り号泣逆上がり特訓の地獄)
⑥ネオメロドラマティック
作詞:新藤晴一、作曲:ak.homma、編曲:ak.homma, Porno Graffitti
17thシングル『ネオメロドラマティック/ROLL』、5thアルバム『THUMPχ』収録
“君の「愛して」が 僕に「助けて」と
確かに聞こえた“
こんな大名曲を2025年まで一度も聴かないまま過ごしてきた人間がここにいます。歌詞の内容は、人間らしさを社会から搾取され続け、降りることもできず、次第に心がやせ細っていく現代人を、遠回しな表現で勇気づける晴一なりの応援歌...といったところでしょうか。街に存在しない"「助けて」というWord"をクライマックスで再び登場させる回収力は見事ですが、比喩が複雑で、掴み損ねている部分も多い。しかし、頭がぐるぐると思考を始める前に、メロディが疾走し、体が動き出す。理想的なポップミュージックです。
⑦渦
作詞:新藤晴一、作曲:Tama、編曲:ak.homma, ポルノグラフィティ
10thシングル『渦』、4thアルバム『WORLDILLIA』、ベストアルバム『PORNO GRAFFITTI BEST BLUE'S』などに収録
“溢れそうな水が排水溝へ
小さな渦をつくって流れていく
ぶつかって廻りながら消えてゆくの
覗き込めばそのまま引きずりこまれていく“
ー渦
終始退廃的な空気を帯びた歌詞と、Tamaさん作曲のスリリングな展開が相まって、グッと引き込まれる曲。1番、2番共にBメロで描かれる排水溝のくだりが妙に生々しくてドキッとする。“渦"というタイトルを見た時、「不安の渦」とか「悲しみの渦」など、ネガティブな感情を強調するメタファーとして登場するのかなと思っていたら、「排水溝に流れる水の渦」という、事象だけが描写される。その描写そのものが、"僕"の心模様を表しているという...。
⑧Part time love affair
作詞:新藤晴一、作曲:新藤晴一、編曲:トオミ ヨウ, Porno Graffitti
44thシングル『LiAR/真っ白な灰になるまで、燃やし尽くせ』カップリング
“ワインの話題にはいいんじゃない?間抜けな僕のまなざしを
真似てはクスクス笑えばいい テーブルの向こうのあいつと“
ーPart time love affair
トオミヨウのメロウなアレンジに乗せて描かれる、男性視点の不倫の話。しょーもな自己憐憫男の描き方が上手すぎる。"間抜けな僕のまなざしを真似てはクスクス笑えばいい"って投げやりになってるけど、"君"と"あいつ"がわざわざ"僕"の話なんかするわけないだろうに。「叶わぬ恋に手を出した哀れなボク」の物語に溺れる主人公が、滑稽でおもしろい。極めつけは"W"の多用。さっきまで交わっていた車内で、フロントガラスに"W"を書き続ける状況自体が滑稽なのに、"君はそうか Wのマーメイド"って何やねん。
⑨THE REVO
作詞:新藤晴一、作曲:岡野昭仁、編曲:tasuku・PORNOGRAFFITTI
56thシングル『THE REVO』収録
“いわば革命っていうやつを脳内で起こすのなら
マイナスをプラスと読み違えてしまうような
戦略的エラーがいくつも必要になる
正攻法ばかりじゃ繋がれないパラレルがあるさ“
ーTHE REVO
講座開始以降はじめてリリースされた新曲より。ここでいう“革命“は、個人的で精神的な意味でのそれを指す。普段の自分には起こし得ない大胆な行動、あるいは意識の変革は、常識の真逆をいく“戦略的エラー“を無理矢理発生させないと実現できない。それは“正攻法“ではないが、そうでもしないと辿り着けない境地がある―ということを、サビを丸々使って説いている。
「世界を変えるにはまず自分から」といった類の歌詞や思想はありふれていますが、普通もっとふわっとした着地に終始しそうなところを、どういうロジックで“革命“がなされるかを言葉を尽くして表現したところに、晴一氏の作詞家としての矜持を感じました。
あと、ヒロアカ読者の私はどうしてもヒロアカ文脈を重ねてしまう。特に2番からの歌詞は、死柄木弔やトガヒミコら敵連合のMADを作りたくなる。“明日こそ2回目のバースデイにするさ““革命の前夜に私は怯えない““私こそが王であると高らかに叫ぼう“......。かれらの戦いの軌跡が蘇り、目頭が熱くなります。晴一さんなりにヒロアカの世界観に寄り添い、咀嚼してくださったことがよく伝わってきて、本当に有難いです......。
昭仁作詞曲のベストナインはまた次回。今月中には書きたい。
