零れ落ちる前に。

その時々感じたことを、零れ落ちる前に。

「# 国際女性デーはみんなのものじゃなくて女性のもの」とトランス差別

3月8日は国際女性デーでした。

 

womenwill.google

 

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ジェンダーギャップ指数が156カ国中120位という不名誉な称号を持つ国、日本。女性の権利を悉く剥ぎ取り、男性優位な社会を保ち続けようとするこの国の現状は、到底許容できるものではありませんし、一ミリたりとも未来に引き継ぎたくありません。近年はSNS上で「#MeToo」をはじめとしたハッシュタグムーブメントが起こり、これまで声の大きい人たちにかき消されてきた女性たちの小さな声が次々と可視化され、差別を意識したことがなかった男性たちの目にも届くほど大きくなっていますが、まだまだ「男女平等」「ジェンダー平等」を掲げられるほど変わったとは言い切れないのが現状です。

 

そんな中で今年もやってきた国際女性デー。話題になったハッシュタグの中に、「#国際女性デーはみんなのものじゃなくて女性のもの」というものがありました。このハッシュタグの文字面が(ぱっと見)示している「国際女性デーに女性以外の話をするな」という主張は正当だと思います。「国際女性デー」に合わせて各種メディアが企画した特集には、女性ではなく男性が語り手となり、大雑把にジャンル付けされた「多様性」や「ジェンダー平等」の話をする場として設けられたものが散見されました。これらももちろん大事な発信ですが、「国際女性デー」と名付けられた日に、女性のために設けられた場のマイクを奪ってまで発言するのは違うと思います。1日くらい譲れよ、という怒りがSNSで広がりました。これはシスジェンダー・ゲイ当事者のようなマイノリティであっても例外ではなく、「マイノリティ」として大雑把に括り、「女性と同様に不利益を被っている人たちなのだから国際女性デーの発言者として相応しい」というのは安易な考えです。*1

 

www.tokyo-np.co.jp

 

このハッシュタグを見た時、大事なことだと思い、シェアしようと思いました。しかし、よくよく見てみると、実態は全く違いました。このタグの正体は、トランスジェンダーを差別するために作られた醜悪なムーブメントだったのです。

 

 

トランスジェンダー女性のイシヅカユウさんがこのようなツイートをしたところ、引用リツイートに夥しい数のトランスフォビアが書き込まれました。上記のハッシュタグは、彼女のツイートを引用したものに添えられていました。「自称女」「身体男性」「男が女を騙るな」「トランスカルトは黙れ」...。差別に反対する者たちで連帯するために生まれた記念日に、差別的発言が並ぶなんてことは許されてはなりません。

 

 

トランスジェンダー女性は女性です。「トランスジェンダー女性は女性ではない」と切り捨てることは明確な「差別」です。

 

 

性同一性障害」や「心の性と体の性の不一致」といった単純化された説明が先行して、トランスジェンダーはその存在を誤解されています。身体的特徴、性器の有無が性別を決め、社会的に構築されるジェンダーなどは存在しないとする考えはまだまだ根強く、そのため「トランスジェンダーなどいない」と排除言説を唱える者が再生産され続けています。国会議員が公然と差別発言をする国なので、無理もないといえばそうかもしれません。まあ、日本だけじゃなくて世界中で起こっているのでより最悪なのですが。

 

kondoginga.substack.com

 

front-row.jp

 

 

SNSのムーブメントに参加しているフェミニストの一部には、巧妙にトランス排除言説を織り交ぜて語る者もおり、これもまたトランス差別を助長する一因となっています。著名で発信力のあるフェミニストでさえ、トランスについては懐疑的だったりします。SNSフェミニズムの運動が活発になればなるほど、トランス差別が過熱するというケースも起こっています。

 

どうして同じ女性として連帯できないのか。トランスジェンダー女性を女性と認めないのか。

 

その原因のひとつとして必ずといっていいほど語られるのが「トイレ」です。女性用トイレをトランスジェンダー女性が利用することに対して、恐怖を抱き、その結果としてヘイトに走る人がよく見られます。女性の場に男性が入ってくるという恐怖。性犯罪に遭うかもしれないという恐怖。それらの恐怖を抱くのは真っ当です。男性優位のこの社会で起きている数々の性犯罪は到底許されるものではないですし、この最悪な男性たちと社会に対して女性たちが抱いている恐怖を軽んじては絶対になりません。

 

しかし、同時に、トランスジェンダー女性も恐怖を抱いています。ジェンダー規範が強いこの世の中で、トランスジェンダーは様々な困難を抱えています。性別違和に苦しんだり、性自認が「公的な性別」とは異なることを隠して生活しなければならなかったり、周囲へのカミングアウトに悩んだり、就活や社会生活において様々な不利益を被ったり...と枚挙にいとまがありません。また、もし性別二元論が強固でなかったならば、性別適合手術が絶対に必要ということもなかったはずなのに、社会に合わせるためにやむを得ず、多額の費用と体力、精神力を消耗して性別適合せざるを得ない...というケースもあります。異なる悩みを抱える一人ひとりの人生を数行に包括することはできないので、これ以上尺を割くことはしませんが、ここで言いたいのは、「ただでさえ多大な不利益を被り、夥しいストレスを抱えているトランスジェンダー女性が、わざわざ「男性を騙る」と思うか?」ということです。

 

もちろん、「トランスジェンダー女性に犯罪者はいない」と言い切ることはできません。「トランスジェンダー女性を騙るシスジェンダー男性はいない」も100%の真実とは言えません。しかし、それはどのジェンダーにも置き換え可能ではないでしょうか。個人の犯罪を特定のジェンダー全体の責任にすり替えることは、人種差別のようなヘイトクライムと何ら変わりありません。特定のジェンダーの存在をなかったことにし、過剰に乏しめることは、明らかに不当な差別です。自分たちが特権的立場=シスジェンダー男性から受けた不当な扱いを、自分たちより更に弱者=トランスジェンダー女性に対して向ける。それは明らかに、矛先が間違っていませんでしょうか。

 

※なお、念のため補足しておきますが、ここではトランスジェンダー女性の女性用トイレ利用の是非を問うているわけではなく、トイレ問題(あるいは公衆浴場など)の一点突破でトランスジェンダーの存在そのものを否定する論理を糾弾しています。 

 

 

 

こうして書き連ねてきた言葉は、今まさにトランス差別を続けている人たちには届かないでしょう。イシヅカさんに対する容赦のない誹謗中傷の数々は、対話をする気がないからこそ出てくるもので、いつまでたっても平行線なのは目に見えています。しかし、トランスジェンダーについて何となく知ってはいるけどあまり理解できていない、という周りの人たちが(意図せずとも)トランス差別に加担してしまっているのを防ぐことは、きっとできると思っています。また、「LGBTQ+」というトレンドワードのようになっている言葉にどんな人たちが包摂されているか、見えるようになると思います。どうか、少しでいいので、こういうことが起こっているんだということを知ってもらえると幸いです。

 

また、私自身もトランスジェンダーをはじめとするマイノリティに対して誤解していることがないとは言い切れないですし、理解できていることでも、まだ上手く言葉にできないことが多々あります。今後も少しずつ、繰り返し言葉にしていきたいと思っています。一人ひとりが小さな声でもいいから言葉にすることで、差別が減っていき、最終的に根絶されるのだと信じています。

 

 

 

 

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*1:これは後段の「トランスジェンダー女性は国際女性デーにおいて発言権がある」という主張と矛盾しないものです。この記事で「女性」と記述するときはシス・トランスを包摂し、片方だけを示す際は「シスジェンダー女性」「トランスジェンダー女性」と明記しています。