零れ落ちる前に。

その時々感じたことを、零れ落ちる前に。

縁(えにし)

アンジュルムのリーダーであり、書道正師範の資格と「煌舞」の雅号を持つ竹内朱莉さんの初個展『煌々舞踊(こうこうぶよう)』に行ってきた。

 

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会場はなんと明治神宮外苑・聖徳記念絵画館。卒業発表時に「個展を計画している」と報じられた時、失礼ながら「どうせひなフェス内での展示程度だろうな…」と鷹を括っていた。まさかこんな大きな会場で催すことになろうとは。すまない事務所。ありがとう事務所。半信半疑のままJR信濃町駅から歩くこと約10分。静謐な地に佇む歴史ある建造物の正門には、間違いなく「煌々舞踊」の看板が立てかけられていた。

 

入場すると、煌舞正師範が手掛けたまだ見ぬ書が厳かな空気の中に並んでいた。23の誕生花、アンジュルム、「煌舞の私」、幼少期からの軌跡。躍動感溢れる思い切りのよい書から、全てを削ぎ落とした凛とした書まで様々だった。

 

入口が混みあっていたため、先に一番奥へと向かう。「煌舞の私」と題して、一文字、二字熟語、四字熟語の書が並ぶ。書体、サイズ、レイアウトも様々。出口付近には「煌々舞踊」と「有終完美」が掲げられており、竹内さんの15年間に終止符を打つかのような風格のある作品だった。

 

四字熟語のチョイスの多くは、過去のツアータイトルや楽曲名から来ている。「輪廻転生」、「百花繚乱」、「起承転結」、「風林火山」、「大器晩成」、「七転八起」。アンジュルムが歩んできた歴史を、力の籠った作品たちから辿っていくという稀有な体験。後述するアンジュルムのコーナーと、誕生花のコーナーも同様だ。グループの歴史を書というアートに次々と落とし込んでいく。書家としての夢を叶えるためにグループを旅立つ彼女にしかできない芸当だ。

 

四字熟語だと他にも「報恩謝徳」、「天下無敵」、「初志貫徹」、「勇気凛々」、「全力前進」、「雲外蒼天」などの語が選ばれた。漢字は得意ではない、と公言する彼女だが、今回の個展で選ばれた言葉たちには彼女の精神性が宿っており、開催するにあたって考え抜かれたのだと推察される。『S Cawaii!』にて連載中の「人生墨まみれ」での経験も活かされているのだろう。そういえば、入口には「人生墨まみれ」の一部連載記事と、記事内で言及された書のサンプルも展示されていた。この連載が決まった時にアンジュオタ一同で大いに盛り上がったものだが、遥か昔の記憶のように思える。

 

 

一文字、二字熟語で特に気に入ったのは「夢」、「龍」、「永遠」。「夢」は好きすぎて時間内に何度も帰ってきた。スマートなシルエットと、上に向かっていくはらいのリーチが美しい。竹内さんのひたむきさと、まだ見ぬ未来に向かって突き進んでいく姿を体現したかのような作品だった。

 

「煌舞の私」コーナーの向かいには小中学校時代の軌跡が展示されており、これまた貴重。自分の同じくらいの時期に習字教室に通っていたため、昇級試験の課題や、シールを沢山貼られた月謝袋などの展示を見て懐かしい気持ちを覚えた。「悪ガキ」として名を馳せていた頃の彼女が、コツコツと習い事を続け、着実に腕を上げていったのだと思うと、何だか愛おしくなる。それが今や正師範なのだから、まさに「続けるお前めっちゃストロング」。

 

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中央に大きく掲げられた「縁」と「愛」。どちらも大作だ。「愛」はアンジュルムの核であり、つい最近も別の作品がアルバムのパッケージとして採用されている。その時より更に雄大で美しい「愛」は中央に鎮座するのに相応しい。右上に小さく「愛」の落款も押されているのがお洒落。

 

また、「縁」のチョイスは意外であったが、竹内さんらしさ、アンジュルムらしさを強く感じた。

 


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書道パフォーマンスで「縁」と書き上げた理由を聞かれると、デビュー当時から「たくさんのご縁があって」と回想。「私の人生の中でこの『縁』という文字は欠かせないものだと思って、最後にこれを書いて展示が完成する感じだったので、この文字で締めるというか、始める、という思いを込めた」と明かした。

アンジュルム竹内朱莉、書道展前に書く“縁”「この文字で締めるというか、始める、という思い」 | BARKS

 

こちらの「縁」も素晴らしいが、「煌舞の私」コーナーの「縁」も見事な出来映えで、大変気に入ったため色紙を購入。グッズ購入時に「"えにし"でお間違えないですか?」と問われたので、こちらの作品は「縁(えにし)」が正しいよう。男女間の縁を指す読み方らしいので、「えん」では…?と思っていたら、竹内さんご自身は「えん!」と言っていた(笑)でも印象深い出来事だったので、題に残しておく。

 

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『BIG LOVE』の楽曲が賑やかに流れる中「アンジュルム」コーナーへ。竹内さんが現役メンバーの10人に対し、ひとりひとりをイメージして認めた書だという。これがまた素晴らしくて。語に込められた意味もさることながら、それぞれの書体にもメンバー愛が溢れている。例えば、「情」の一文字取ってもかみことしおんぬでは書体が全く異なり、前者は思いやりに溢れたさまを、後者はフレッシュな躍動感を表現していたように思う。いずれの作品も素晴らしいが、特にかみこへ宛てた「愛情」と、鈴蘭に宛てた「可憐」がお気に入り。また、これはフォロワーの受け売りだが、『BIG LOVE』の初回盤Aに付いてきたブックレットでもメンバー別に書を書き下ろしており、個展用のものとは選んだ言葉が異なっている。見比べて考えるのも楽しい。

 

アクリル絵の具と墨を混ぜたもので書いた蒼色の作品も。「魂」、「夢」、「翔」。いずれも躍動感があって心を揺さぶられた。

 

 

そして、感激のあまりその場からしばらく離れることができなかったのが誕生花のコーナー。事前の口コミで何となく聞いていたが、スマイレージ及びアンジュルムの歴代メンバー23人分の誕生花を認めた書がずらりと並んでいた。決して平坦では無かったスマアンジュの歴史を一本の道に均す試みは昨年の秋ツアーでも見られたが、このような形で見られるとは思ってもみなかった。これも歴史を彩ってきたすべてのメンバーと「縁」がある竹内さんにしかできない所業。誰を対象とした作品なのかは明言せず、「わかるひとにはわかる」で収めるところも粋(だしここが限界なのだろう)

 

入口から順に、4スマ、2期(サブメンバー)、3期、かみ、かさ、ふなかむ、はちれら、鈴ちゃん、三色団子、そしてぺい。それぞれの人となりをどのようにイメージして書に込めたのかは師範にしかわからないが、彼女らひとりひとりの人となりがダイレクトに伝わってくる書が多かったように思う。

 

以下、それぞれの書の印象を箇条書き。

 

和田彩花さんと福田花音さん、すなわちあやかのんの「朝顔」と「土筆」。2人の対となる性質がよく表現されていたように思う。「土筆」の下降する勢いが好き。

・「有加利」はゆうかりんではなく小川紗季さん。ゆうかりんは「石榴ざくろ」。初期メンの誕生日はわからないのでググりながら鑑賞した。小数賀芙由香さんの誕生花、「吾亦紅(われもこう)」もあって一安心。一文字一文字が丁寧で、拘って書いた作品であることが伝わる。

・「極楽鳥花(ゴクラクチョウカ)」。ストレリチア花言葉を調べると「輝かしい未来」「万能」「女王の輝き」などギラギラとした言葉が出てくる。強き王である竹内さんに相応しい言葉。

・勝田さんの誕生花が「金蓮花」、別名「ナスターシャム」なのは驚き。末満さんはそこまで当て書きしてたのかな。色も黄色とオレンジだし。ちなみにここまでの書で「竹内朱莉」の落款を使っているのは「極楽鳥花」と「金蓮花」だけ。たけりな!

 

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たけりなといえば勝田さんのブログも必読。きっかけがかみちゃんなのも愛。

田村芽実さんは「紅岩桐(シーマニア)」。岩の掠れ具合に切迫感がある。

・「空木」。本個展の中でいちばん好きかも。真っ直ぐで、芯があって、無駄のない美しい立ち姿。対象が中西香菜さんというのも味わい深い。

・3期のりかむろあいはそれぞれ「瑠璃虎尾(ルリトラノオ」、「紫丁香(シチョウゲ)」、「春蘭」。佐々木さんの字に「虎」が入ってるの流石すぎて笑っちゃった。実際それが選んだ決め手のよう。「王」も2つ入ってるし威厳がある。くずし字で「丁」を挟む「紫丁香」も、原型に近いお手本のような「春蘭」も素敵。

・横並びでかみかさが一文字ずつ。「梅」と「芒(ススキ)」。これまで二文字か四文字だったので逆に際立つ。

・ふなかむは「菖蒲」と「睡蓮」。これも2人っぽいなあ。「蓮」のしんにょうのはらいがのびのびとしていて、かむちゃんの手足の長さ、伸びやかさを連想させる。「昌」の一筆書きも惚れ惚れ。

・多くのオタが涙したはちれらコーナー。はちの「黄花玉簾(キバナタマスダレ」は特に力が篭った作品だと思う。一文字一文字が威厳に満ちている。文字の間隔もバランスが良く、お気に入りの作品。対する鈴蘭もこれまた当て書きのような「雪柳」。「卯」の丸みを帯びたはらいが柔らかくて素敵。

・単独加入の橋迫鈴さんは「女郎花オミナエシ」。こちらも力作。「花」がキリッとしていて良い。

・そして三色団子。川名凜さんが「雪の下」、松本わかなさんが「桔梗」、為永幸音さんが「紫羅欄花(あらせいとう)」。どうしてここまで"らしい"誕生花が当たるのか。特にしおんぬが厳つくて。「紫」はこの異体字だよね。「欄」のキリッとした佇まいも好き。

https://glyphwiki.org/glyph/u7d2b-itaiji-001@1.svg

u7d2b-itaiji-001 (紫) - GlyphWiki

・ラストは最新のアンジュメンである平山遊季さんで「菫トリカブト」。一文字で締める潔さ。どっしり構える末っ子の貫録にアンジュルムの未来を見た。

 

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撮影禁止だった作品群は抽選会の動画で見ることができる